福島県では,現在でも各地で除染作業が行われています。福島県の復興のために行われている除染作業ですが,現実には作業員が不当な扱いを受けているケースも少なくありません。
関東地方から除染作業員として働くために福島県にやってきたAさんは,働き始めてからわずか2か月足らずでB社から雇用期間の終了を告げられました。Aさんは,収入が途絶えて生活に困難を来したため,福島労働局に紛争調整委員会によるあっせんを申請し,B社との話し合いを試みましたが,B社は話し合いのテーブルにつこうとしませんでした。
Aさんは,そのような状況で当事務所にお越しになり,短期間での雇止めの違法性を主張して,B社に損害賠償を求める労働審判の申立てを行うこととなりました。
労働審判とは,裁判官(労働審判官)と労働問題についての専門的知識を有する者2名(労働審判員)の計3名で構成される労働審判委員会が,申立人と相手方の双方の言い分を聞いた上で,原則として3回以内の審理によって迅速な解決を目指すという手続きで,訴訟とは異なり,純粋な法的判断ではなく,事案の実情や両者の意向を踏まえた柔軟な解決を図ることができるのが特徴です。
Aさんは,労働審判を申し立て,その手続きの中でB社との話し合いのテーブルにつくことができました。労働審判委員会は,話し合いでの解決の途を探りましたが,3回の審理を経た結果,話し合いでの解決は困難であると判断し,この事案の解決のために,B社に対し,一定の金額をAさんに支払うことを命じました。これが「審判」です。
裁判例においては,契約書等で明示された雇用期間の満了を理由として雇用終了とされても,契約更新の回数や,業務内容,会社側の言動など,様々な事情を考慮した上で,実質的には正当な理由のない解雇に当たり違法であると判断された例が存在しています。Aさんの労働審判においても,この点が主な法律上の争点でしたが,審判では,そのような法的な問題については触れられず,事案の実情や双方の意向を踏まえた解決方法として,B社からAさんへの一定の金銭の支払いが命じられました。
労働問題の解決のためには,訴訟に限らず,複数の手続を採ることが考えられますが,裁判所を介して迅速かつ柔軟な解決を図ることが可能な労働審判も選択肢の一つです。どのような手続きをとるのが望ましいかは事案によって異なりますので,まずは専門家にご相談されることをお勧めいたします。