父が先日亡くなりました。両親が幼いころ離婚し,私は母に引き取られて,父とは音信不通だったため,相続放棄をしようと考えています。ところが,生命保険会社から,「父が生命保険に入っており,私を保険金の受取人に指定していたので,受け取りの手続をしてほしい」という連絡がありました。保険金を受け取っても相続放棄はできますか?
ご回答
民法921条では,「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき」は,当該相続人は「単純承認をしたものとみなす」と定めています。ここでいう「承認」とは,相続人となることを選択したということと理解されています。そうすると,生命保険金が「相続財産」にあたるとすれば,生命保険金を受領してしまうと,単純承認をしたものとみなされて,相続放棄できなくなってしまうのではないかという疑問が生じます。
この点については,一般に,次のように理解されています。生命保険金は,被保険者である被相続人が死亡したことをきっかけとして支払われるものですが,生命保険の場合,契約者が被相続人以外である場合もあり得ますし,また契約者は,相続人でない全くの第三者を受取人と定めることもできます。つまり,生命保険金については,指定された受取人の固有の財産的権利であり,相続財産とはいえないと考えるのが一般的です。
したがって,ご相談のケースでも,相続放棄は認められると考えてよいと思います。ただし,生命保険の場合,契約者・被保険者・受取人が誰かによって,また,生命保険の約款の規定の仕方によって,結論が別になる可能性もありますので,詳しくは,弁護士など専門家にご相談されることをお勧めします。