自治体が分譲した住宅地の震災による地盤崩壊事案で勝利判決を得ました!
先日,標記事案で,住宅地の買主が売主である自治体に損害賠償を求めた訴訟の判決があり,買主側の勝訴判決を得ることができました。
宅地分譲の経緯と震災による地盤崩壊
この住宅地は,自治体の計画の下,平成4年ころ宅地造成がなされ,自治体から分譲されたものです。買主はそこに住宅を建て,東日本大震災までは支障なく利用していました。しかし,東日本大震災によって盛土ののり面(斜面)が崩壊し,住宅の敷地には大きな亀裂が入り,住宅も基礎が傾くなどして利用できなくなってしまいました。
地盤崩壊の原因調査と提訴
買主の二人は,同じ住宅団地の他の区画の敷地には目立った被害が出ていないことから不審に思い,地質調査会社に依頼してボーリング調査などをしたところ,この区画は盛土によって造成されたこと,盛土層内に地下水脈があり,盛土の材質自体にも問題があったことなどが判明しました。そこで,この土地は,住宅の敷地として利用するための強度を備えていない(瑕疵のある)土地であるとして,売主の自治体に対する瑕疵担保責任(民法570条)に基づく損害賠償請求を求めて,自治体を被告として訴えを提起しました。
訴訟で明らかになった地盤の問題点
訴訟では,自治体は,造成にあたって,付近でボーリング等の土質調査などはしていないものの,盛土の締め固めなどは行っており,必要な強度は確保されていた,地盤崩壊は東日本大震災の強度の地震動によるものであり,瑕疵はないと主張し,争いました。
震災時点で造成から20年近く経過していたこともあり,資料なども少なくなっており,事実を明らかにすることが難しい面もありましたが,訴訟の途中で,盛土層内の地下水などを排水するための暗渠排水の仕様に関する設計書などが出され,それによれば,排水効率を高めるために,排水管を葉脈のように多数配置することになっていたところ,実際には,暗渠配管が2本しか設置されていなかったことが判明しました。
盛土層内の水は,地盤の安定性を失わせ,滑りを大きくするため,「盛土の敵は水である」と言われ,盛土崩壊の原因となるものです。そのため,盛土による造成の場合,盛土層への雨水の浸入防止や盛土層内の排水には最大限配慮することが求められます。
判決の認定
判決では,造成前の地形(周辺を丘陵にはさまれた谷状の地形で地下水が集まりやすい),暗渠排水から相当量の排水が観測されていること,暗渠排水が設計仕様どおりでなく排水能力に疑問があること,のり面の小段に設置された農業用水路は排水を目的としたものではなくむしろ溢水や漏水の危険があること,などから,盛土の排水対策に対する配慮が欠けていたとして,「地震に対して通常宅地が有するべき安全性を十分に有しない状態となっていたものであり,このため,本件各土地の盛土層は,東日本大震災の地震動に耐えられず地盤崩壊を惹起した」「崩落事故の根本的な原因は…本件宅地造成の盛土施工に当たり適切な排水対策を怠ったこと等にある」と認定し,宅地の瑕疵を認めました。その上で,宅地の購入代金相当額全額と,住宅建設工事代金の5割に相当する額(震災までの使用利益や経年劣化を考慮して減額)の賠償を認めました。
地盤被害に関する裁判例の動向など
東日本大震災によって発生した地盤被害については,他にも,千葉市での地盤流動化についての訴訟や,仙台市青葉区の地すべり被害についての訴訟などがありますが,住民側の敗訴が相次いでいます。この判決は,その中で数少ない住民側勝訴の一例となりました。本件では,地震後それほど遅くない時期に専門家による地盤調査が行われ,ある程度地盤の問題点を明らかにした上で提訴できたこと,運良く造成当時の資料が発見され,排水対策の問題点が明らかになったことなどの理由から,勝訴判決を得ることができました。地盤被害や建築瑕疵などについては,専門性が高く住民側にとって困難な訴訟と言われています。しかし,なるべく早い時期に,適切な専門家の協力を得ることによって,被害の原因を明らかにして救済を図ることができる場合もあることを,この判決は示していると思います。