事件の内容
Aさんは祖父と祖母と三人で暮らしていました。祖父母から可愛がられ、経済的にも様々な形で援助してもらうことがありました。そのような中、祖父が亡くなり、祖母が認知症の影響で施設に入所することになりました。そのとき、遠方に住んでいた伯父と伯母が祖父母の通帳を見て、Aさんが勝手に祖父母のお金を使い込んだのではないかという疑いを持ちました。たしかに、Aさんは一時期経済的に厳しかったときに祖母の口座からお金を引き出したことがありましたが、伯父と伯母は祖父母の出金額のすべてがAさんによる横領であると主張して譲りませんでした。長時間にわたって詰問されたAさんは、とうとう伯父と伯母に求められるままに借用書を書かされてしまったのです。その後Aさんは借用書に基づき支払いを続けていましたが、自分が実際に使ってしまった金額を大幅に超える金額を伯父と伯母に支払っていることに疑問を感じ、支払いを止めたところ、伯父と伯母から残額の返還を求める訴訟を起こされてしまったのです。
裁判での主張立証
裁判では、Aさんは祖父の口座については全く関与しておらず無断で引き出したことは一切ないこと、祖母の口座については一部を私的に使ってしまったがその他は無断で引き出していないことを主張しました。裁判当時、祖母は認知症の症状が進行し、当時の状況について証言していただける状況ではありませんでした。そこで、問題となっていた時期の祖父と祖母の介護記録を取り寄せ、当時の祖父母は自分で財産管理ができていたことを立証しました。また、祖父母が預貯金を引き出す際に銀行窓口で記入していた払戻請求書を取り寄せ、その筆跡が祖母のものであることを明らかにしました。
判決内容と雑感
判決では、こちら側の主張が全面的に認められ、祖父母の口座の引き出しについてはAさんが自ら認めていた金額以上の横領はないことが認定されました。判決では、伯父と伯母がAさんに作成させた借用書は伯父と伯母の極めて不正確な推測に基づく金額を一方的に記入させたものであるとして、そのような借用書があったとしてもAさんがその金額の横領を認めたことにはならないと判示しました。
今回のような親族間のトラブルはよく見られるところです。介護をしていない遠方の親族のなかには、介護の苦労や費用が意外にかかることについて理解ができない方もいます。最初は小さな不信感でも次第に大きくなり、今回のように裁判まで発展してしまうこともあります。親族間のコミュニケーションが希薄になっていると紛争が激化する印象があります。大きな出費をするときには他の親族に説明ができるように領収書等を保管しておくことをお勧めします。