先日,数年前から施設で生活していた私の父が亡くなりました。父は生前,知人の借金の連帯保証人になっていたのですが,現在,その知人は借金が返せるような状況ではなく,父の相続人である私に請求が来ています。とても支払えるような額ではないので相続放棄の手続きをとりたいのですが,実は,父が亡くなった直後に父の預金を払戻し,父の施設の未払いの利用料を支払ってしまいました。相続放棄に当たって何か影響はありますか。
相続放棄を行う場合,原則として被相続人が亡くなったことを知った時から3カ月以内に,家庭裁判所で相続放棄の手続きをとることになります(民法915条1項・938条)。ところが,法律上の相続人に当たる人が,亡くなった被相続人の財産(不動産,預金など)を「処分」してしまったなど,一定の場合には,相続人となることを受け入れたと法律上扱われてしまい,期間内であっても相続放棄ができない場合があります(これを「単純承認」といいます。)。その結果,その人は被相続人のプラスの財産,マイナスの財産を全て受け継ぐことになってしまいます(民法920条・921条)。
ご質問の場合,払い戻したお金の使い道によっては単純承認とみなされてしまうことがあります。お父さんに支払い義務がある施設利用料の支払いであれば,全体としてお父さんの財産に損失はなく,単純承認とみなされない可能性はありますが,一部でも自分のためにお金を使ってしまった場合には,単純承認とみなされる可能性が高くなります。
相続放棄を行う可能性が少しでもある場合には,預金の払戻しなど,被相続人の財産を見た目上変動させるようなことはできる限り避け,仮に預金の払戻しなどをしてしまったときには,自分の財産とはきちんと区別するなど,被相続人の財産を使ってしまったとの疑いを掛けられることのないように注意しましょう。