国会では、森友問題に関連して財務省が決裁文書の内容を書き換えた、あるいは改ざんしたという問題が大きな焦点となっています。これは、国会で審議されていた森友問題について財務省の官僚が答弁した内容が元々の決裁文書の内容と異なる内容で答弁され、しかもその決裁文書が書き換えられたということで、行政が国権の最高位機関である国会を欺いた疑いがあるなどとして、民主主義の根幹に関わる問題だとされている問題です。この森友問題については、安倍総理の夫人が関与しているのではないかとの疑惑やこれらの政治の力を忖度して行政が歪められたのではないかと言われている問題です。
このような稀に見る大きな問題が進行中の最中に、今度は文部科学省が愛知県の市教委に対して、前文部科学事務次官の前川喜平氏が名古屋市内の中学校で授業の一環として講演した内容について、メールで質問するとともに講演内容の録音データの提供さえも求めていたという事実が明らかにされました。
その後の報道の経過を見ますと、自民党の文部科学部会に所属する国会議員が文部科学省に対して、前川前次官の前記講演の照会をかけ、その結果文部科学省の担当者が市教委に質問したということだったようです。
しかし、このような文部科学省の行った個別の中学校の授業内容に関する事項についての質問(質問といっても、事実上の調査ですが)と講演内容の録音データの提供を求める行為は教育に対する支配介入という前代未聞の行為と言ってもいいでしょう。
戦後教育は、日本国憲法の制定等とともに教育基本法が制定され、同法第16条において「教育は不当な支配に服することなく」行われるべきであることを定めました。そして、1948年(昭和23年)には教育勅語の廃止を決議しました。これは、戦前の国家神道に基づく国家主義的な教育を否定し、その反省の上に、個人の尊厳を重んじ真理と正義を希求するなどの教育を目指したもので、だからこそ教育に対する不当な支配があってはならないと規定しました。
今回の文部科学省の質問は、個別の授業内容についてのもので、教育現場に対する不当な支配介入の何者でもないといわれています。しかも、文部科学省は、独自の判断で質問したと説明していますが、その背景には自民党の国会議員の照会があったというのですから、文部科学省自体が政治の力に屈したと評価されても仕方がないような経過がありました。まさに、政治による教育への不当介入とこれをはねつけるべき文部科学省が政治に屈してしまうという二重の意味で大変問題があるように思います。
安倍内閣になってから、このような不適切な問題が頻発しているように感じます。それも民主主義の根幹に関わる問題です。内閣の憲法の番人と称される内閣法制局長官の不透明なトップ人事、歴代自民党内閣自らが集団的自衛権の行使は憲法上許されていないと言ってきた憲法解釈を閣議決定で変更してしまったこと、政治家の問題発言、森友問題や加計問題等々、異常な事態が噴出しています。その延長線上に文部科学省の教育介入があったと言われても仕方がないように思います。
国民の基本的人権を守るための立憲主義を蔑ろにする政治、民主主義の根幹を破壊しかねない行政のあり方や政治家の姿勢などの数々の異常事態は放置できない段階に来ていると思います。