賃貸アパートやマンションの入居者が,事故や自殺などにより居室内で亡くなった場合,アパートなどの所有者である貸主としては,その居室を「事故物件」として扱わざるを得ず,新たに入居を検討している方に対して,過去に人が亡くなった部屋であるというような事情を説明する義務を負うことがあります。その結果,その居室を一定期間貸すことができなくなったり,貸すことができたとしても賃料をある程度減額せざるを得ない,といった事態が起こる可能性があります。
その場合,貸主としては,居室の片付け等の原状回復費用のほかに,居室を貸すことができなくなる一定期間の賃料や,賃料の減額分に相当する金額の賠償を,亡くなった借主の責任を受け継ぐ相続人や,貸主に対して借主と同等の責任を負う連帯保証人などに対して請求することが考えられます。
当事務所で過去にご依頼を受けた案件の中に,アパートの居室内で亡くなった借主の連帯保証人となっていた方が,アパートの貸主から,「長期間部屋を貸せなくなった。」として,数年分の賃料に相当する百数十万円の請求を受けたという案件がありました。請求を受けた連帯保証人の方からご依頼を受け,貸主側に対し,当該アパートは単身者向けの物件で入居者の流動性が高いことなどの事情から,それほど長期間の賃貸が不可能になるとは考えにくく,貸主側の請求は高額であることを主張したところ,結果として,3分の1近くまで賠償額を減額することができました。
賃貸物件の居室内で入居者が事故や自殺により亡くなっていた場合,一般的には次の入居者は現れにくくなりますので,それによる貸主の損害について,借主側の賠償責任を否定することは難しいケースが多いと思われます。もっとも,貸主から請求された金額が適切かどうかは別問題です。周辺地域の賃貸物件の需要・入居者の流動性や,入居者が亡くなっていた際の状況など,様々な事情を考慮し,賃貸物件としての価値がどれほど下がるのかについて,過去の裁判例なども踏まえた上で検討する必要があります。
一人暮らしの高齢者などが人知れず自宅で亡くなる「孤独死」が急増する中で,このような賠償の問題も増えてくる可能性があります。もし,そのような問題が発生した場合には,減額の交渉以外にもいくつかの法的手段が考えられますので,まずは弁護士にご相談ください。