当事務所で依頼を受け,解決した事例をご紹介します。
Aさんは,B運送会社に大型トラックの運転手として勤務していました。荷主の工場で商品を積み込み,倉庫や別の工場に運送する仕事を中心に働いていましたが,Aさんの実感としては所定労働時間をかなり超えて働いているのに,B社から支給される残業代(時間外労働手当)が少なすぎるのではないかという疑問を持ち,当事務所にご相談されました。
タイムカードや出勤簿がないとき,どうする?
B社にはタイムカードや出勤簿はなく,実際にも,荷物の積み卸し先に直行直帰することが多く,正確な労働時間はよくわからないということでした。。
しかし,トラックなどの営業用車両には,タコグラフ(運転記録計)が取り付けられていることが多く,タコグラフの記録によって,走行日時や走行距離等を明らかにすることができる場合があります。タコグラフの装着義務付けの範囲も拡大しつつあり,最近は,走行日時や走行距離・速度だけでなく,GPSと連動して運転経路などの多様な情報を記録できるデジタルタコグラフ(デジタコ)を装着した車両が増えています。
Aさんが乗車していたトラックにもデジタコが装着されていたことから,裁判所に証拠保全手続の申立てをしてタコグラフ記録を入手し,これを元にAさんの労働時間を推計して,B社を被告とする残業代請求訴訟を提起しました。
「待ち時間は労働時間ではない」?
訴訟で争点の一つとなったのが,いわゆる「手待ち時間」でした。荷物の積み卸し先にトラックが到着しても,荷物の準備や順番待ちのため,運転手は準備ができるまで待機しているようなことがありますが,B社は,Aさんのデジタコ記録に手待ち時間がかなり見られたことから,「手待ち時間は休憩時間と同様に労働時間には含まれない」という主張をしました。しかし,過去の裁判例では,完全に労働から解放された時間でなければ労働時間にあたるとする判断が確立しています。Aさんの場合も,準備ができればすぐにトラックを動かして積み卸しができるように近くで待機していたことから,手待ち時間は労働時間にあたらないと判断されました。これらの点を考慮して裁判所が和解案を示し,最終的には,B社がAさんに対して解決金を支払うことを受け入れて和解が成立しました。
タイムカードや出勤簿がなくても,あきらめないで
タイムカードや出勤簿などによって,労働時間の記録がなされていない会社も,いまだに存在します。しかし,労働者の労働時間を適正に記録管理し長時間労働を防ぐことは使用者の側の義務であり,これを会社が怠ったために残業代を支払わなくてよいことになってしまうのは本末転倒です。
運転手以外の場合でも,警備会社の出入館記録,コンピュータのログ(アクセス記録),業務日報など,別の方法で労働時間を明らかにして残業代を請求できる場合もあります。もちろん,すべての場合で労働時間を正確に明らかにできるわけではありませんが,職場にタイムカードや出勤簿などがなく,労働時間の正確な記録がとられておらず,残業代が適正に支払われていない場合には,ご自身で出退勤時刻のメモをとるなどして記録に残しておくとよいと思います。