「無戸籍問題」ってどういうこと?
数年前から,「無戸籍」問題が広く存在することが社会問題となっています。戸籍に記載のない「無戸籍者」の方は,選挙権や住民票,婚姻届,国民健康保険や運転免許など様々な面で,権利の行使や行政上のサービスを受けることに支障が生じます。国も実態把握と対策に乗り出していますが,そもそも無戸籍の方については公的記録が乏しいこともあり,実数などはよくわかっていません。
どうして無戸籍になってしまうの?
人が生まれた場合,戸籍法に基づく出生届がなされることによって戸籍に記載されますが,何らかの理由で出生届がなされない場合には,無戸籍者となってしまいます。出生届がなされない理由は様々ですが,その大きな理由の一つとしてあげられているのが,民法に定められた親子関係(父子関係)のうちの「嫡出推定」という仕組みです。
「嫡出推定」ってなに?
血縁上の親子関係(生物学的親子関係)のうち,母子関係は出産の事実で明らかになりますが,父子関係は必ずしも明らかではありません。そこで,民法は,出生後なるべく早い段階で父子関係を確定させるため,まず,①婚姻中に妻が懐胎(妊娠)した子は夫の子と推定し(民法772条1項),次に,②婚姻成立の日から200日を経過した後または離婚後300日以内に出生した子については,婚姻中に懐胎したものと推定すると定めています(同2項)。これを「嫡出推定」と呼びます。しかし,この規定では,離婚前に夫婦関係が破綻しており,別の男性との間に子を妊娠したような場合でも,離婚後300日以内に子が出生し出生届を提出すれば,戸籍には前の夫との間の子として記載されることになってしまいます。これを避けるために,出生届がなされない場合があり,この場合には,子どもが無戸籍になってしまうのです。
「嫡出推定」を覆すには?
「嫡出推定」は,反対の事実の証明があれば覆る余地はありますが,実際に覆すには,原則として夫の方から嫡出否認の調停や訴訟を提起する必要があり,しかも,夫がこの出生を知ってから1年以内に手続をしなければならないため,ハードルが高く,特に夫のDVなどによって離婚したような場合には利用が困難です。それ以外に,例えば,離婚後に妊娠したことを医師が証明してくれる場合や,長期間の別居などのために夫婦間で性的関係がなかったことが客観的に明らかな場合には,子や母が自分で親子関係不存在や強制認知などの手続をすることができるとされていますが,必ずしもこのような事情があるとは限りませんし,調停や訴訟手続によらなければ手続ができないため,これだけで無戸籍の方の問題を解決することは難しいと言われています。
part2に続く….