いま(2019年4月~),NHKの朝の連続テレビ小説「なつぞら」が放映されています。戦争孤児となり,引き取られて北海道で育った女性「なつ」が,アニメーターを志して上京し,成長していく姿を描いたドラマです。この中では,当時のアニメーターの労働環境や子育てをめぐる状況が,さりげなく取り上げられています。
現在は,1970年代を舞台にして,なつがアニメ演出家の夫との子どもを妊娠し,出産後も正社員として働きたいと,職場の仲間の協力を得て会社と交渉したり(当時は,女性のアニメーターは,出産後契約社員となる旨の書面が取り交わされていたようです),子どもを預ける先を探したりする様子が描かれています。8月21日の放送では,なつが保育園の相談のために福祉事務所を訪れたところ,職員から「出産後も働かなければ生活できない事情があるのですか?」と問われ,「生活のためだけでなく,出産後も仕事を続けたいんです」と答えると「子どもを犠牲にしてまで働きたいのですか?」と残酷な質問を突きつけられて悩むシーンがありました。
今でこそ,出産後も職場に復帰して働く女性や育児休暇をとる男性も増えてきています。また,男性と同様に仕事を通じて自己実現や社会貢献をしていきたいと考える,なつのような女性も普通になりました。しかし,今から40年くらい前は,女性と男性では職種が違ったり,出産休暇や育児休暇もなく,女性が結婚や出産を機に退職を迫られたりすることが当然のように行われていました。また,保育所などの育児環境も乏しく,出産後は,女性は仕事を辞めて家事や育児に専念するのが当然だという風潮もありました。先の「子どもを犠牲にしてまで働きたいのですか?」という台詞は,今から見れば無神経なものに感じられますが,この当時はそうした考え方が当たり前であったことを反映したものでもあるのです。
その後,働く女性やそれを応援する人たちが,組合を通じて会社と交渉するなど運動を進め世論を広げていった結果,1986年に「男女雇用機会均等法」が成立し,職場での性別を理由とする差別が禁止され,また出産休暇や育児休暇が制度化されるなどして,今に至っています。また,保育所の整備や男性の育児参加などにより,働きながら子育てをする環境は整いつつあると言えるでしょう。
しかし,いま,働きながら子育てをするための障害となっているのは,男女問わず拡大する非正規雇用(有期雇用,派遣,個人請負など)とこれを背景とする低賃金の広がりではないでしょうか。夫婦そろって派遣で働いているにもかかわらず,低賃金のため給料の多くを子どもの保育料にとられてしまい「保育料を支払うために働いているようなもの」という笑えない話もよく聞かれるところです。
少子高齢化にともなって「一億総活躍社会」や「働き方改革」が国のスローガンとなっていますが,非正規雇用の拡大に歯止めをかけるとともに,最低賃金の引き上げなどにより,少なくとも「8時間きちんと働けば生活できる」賃金水準を実現していかなければ,少子化にストップをかけることもできないのではないでしょうか。