相続法改正により,自筆証書遺言(全文を自筆で書く遺言)の作成や,作成した後の保管についてのルールが改められ,自筆証書遺言の利用がしやすくなっています。今回は,遺言に関する新たなルールについて簡単に紹介します。
⓵自筆証書遺言の方式緩和(2019年1月より施行)
これまでの相続法の下では,自筆証書遺言は,その遺言を作成する者(「遺言者」)が,本文と日付と氏名を自筆で書き,押印をする必要があり,これらの作成ルールが守られていない遺言は無効となってしまうリスクがありました。このような厳しい要件は,遺言者の意思の正確さを担保するために定められていました。
しかし,例えば,遺言者が複数の種類の財産を有していて,財産の内容を整理するため財産目録を添付しようと考えたとしても,遺言者は財産目録も含めて自筆で作成しなければならないため,大きな負担となっていました。
そこで,今回の相続法改正により,自筆証書遺言の作成ルールが緩和され,遺言に添付する財産目録については,自筆で作成しなくでもよいこととなりました。これにより,財産目録については,パソコンで作成したものや,第三者が代筆したものを添付しても問題はなく,不動産の登記事項証明書,通帳のコピー等を添付して目録として使用することもできることになりました。
この改正により自筆証書遺言がより利用しやすくなりましたが,自筆証書遺言の本文については,全文を自筆で書く必要があることには変わりありません。また,パソコンなど自書以外の方法で作成した財産目録には,全てのページに遺言者が署名押印をする必要がありますので,ご注意ください。
⓶自筆証書遺言の保管制度(2020年7月10日より施行予定)
作成した後に公証役場で原本を保管する公正証書遺言とは異なり,自筆証書遺言については,作成した後は自宅などで保管されることが多く,作成後に紛失してしまったり,相続人となる者が内容を無断で見て自分に有利な遺言に書き直してしまうなどの事態が発生するおそれがあります。一方で,簡単に見つからないような場所に遺言を保管してしまうと,亡くなった後に相続人に遺言を見つけてもらえない可能性もあります。このような事態が発生すると,せっかく作成した遺言が意味のないものとなってしまいます。
そこで,自筆証書遺言を確実に保管し,被相続人が亡くなった後に相続人が自筆証書遺言の存在を容易に把握できるようにするため,「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が新たに制定されました。
これにより,遺言者は,法務局に対して,自ら作成した自筆証書遺言の保管を申請すれば,法務局の遺言書保管所において遺言を保管してもらうことができます。遺言の保管中は,遺言者はいつでも遺言の内容を確認することができますし,保管申請を後から撤回することもできます。また,相続人は,遺言者の死亡後,保管されている遺言についての証明書の交付または閲覧を法務局に対して請求することができ,遺言が保管されているかどうか,及びその内容について速やかに確認することができます。
この制度を利用すれば,自筆証書遺言の紛失や,隠匿,改ざん等の事態を防ぐことができるでしょう。また,相続人にとっては,遺言を探す手間を減らすことができるため,自筆証書遺言を作成した際には,積極的に利用することをお勧めします(※施行は2020年7月10日を予定していますので,利用が可能となるのはそれ以降となります。ご注意ください)。