自宅に頼んだ覚えのない商品が大量に届きました。家族に聞いてみるとそのうちの一人がインターネットで購入していたことが分かりました。購入されたものは家電製品などで、テレビを何台も購入していたり、必要な範囲を明らかに超えていました。購入をした家族は、新品のまま近所の人にプレゼントしてしまったり、使わないまま物置に放置したりしています。このほかにも、本を大量に購入したり、家の中が買った物の段ボールであふれてしまいました。
このような家族の異常ともいえる買い物について問題となった案件がありました。この異常な買い物をしてしまう家族は、精神的な疾患から物を大量買いする傾向があり、お金の管理も全くできていない状況でした。見かねた家族がご相談にいらっしゃったという経緯でした。
このような商品購入契約については、不要であるから、なかったことにしたい(商品を返して代金も返してほしい)と考えるものと思います。しかし、成人が一度契約してしまった以上、その契約を取り消すのは難しくなっています。民法では3条の2において「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする」と規定しています。したがって、大量購入をした時点で精神的な疾患により意思能力がなかったといえればこれらの契約は無効になり、返品の上、代金を返還してもらえることになります。しかし、一般的に「大量購入をした時点で意思能力がなかった」ことを証明することは非常に難しいことになります。さらに心配なのは今後も被害が拡大してしまう恐れがあることです。
そこで利用が推奨されるのが成年後見制度です。自らの財産を管理する能力がなくなってしまっている人(精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者)は成年被後見人とされ、成年後見人が代わりに意思表示を行うことができます。これにより財産管理は成年後見人に委ねられ、本人(成年被後見人)が大量購入をしてしまったとしても取り消すことが可能です。この成年後見人は家庭裁判所に申立を行い、後見人を決めることになりますが、適切な候補者がいなければ弁護士などが後見人に任命されることもあります。
今回の案件では本人の兄弟が後見人となることを承諾してくれましたので、この兄弟を成年後見人候補者として成年後見制度を利用することになりました。兄弟の適切な援助のもとで、今後は大量の商品トラブルなどは沈静化することが期待されます。
超高齢化社会を迎えるにあたり、今後このような問題は多くなるものと思われます。帰省したところ、父母が異常なお金の使い方をしていた、不要と思われる高価品を購入している、不要なリフォーム工事を行っている、など本人に任せていると危険であると思われることもあります。そのようなときは成年後見制度の利用によって事態が改善し、更なる被害を防ぐことができる可能性もあります。身近な家族にそのような問題が感じられたら、一度法律の専門家(弁護士や司法書士など)にご相談されてはいかがでしょうか。