最近夫の様子がおかしいと思い、夫のメールを何気なく見てしまいました。そうしたところ、女性と卑猥なラインのやり取りをしており、ふたりでデートを重ねていることが分かりました。夫を問い詰めたところ、相手の女性とはキスをしたり抱き合ったりはしたが、肉体関係はないという話でした。このことによって私たち夫婦は離婚を考えるまでになり、夫婦関係は険悪になってしまいました。このような原因を作った相手の女性に対して慰謝料を請求することはできないのでしょうか。
浮気をめぐる損害賠償のご相談の中には、今回のように肉体関係があったとまでは断定できないものも多くあります。不貞行為による慰謝料という場合には不貞行為とは具体的になにかが問題となります。民法では離婚原因について定める条文のなかで「不貞行為」という文言を置いており、その意味について最高裁判所は「不貞な行為とは、配偶者のある者が、自由な意思に基づいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」をいうと判断しています。したがって、今回のように肉体関係が存在しない場合には「性的関係を結ぶこと」には該当せず、不貞行為には当たらないと考えられます。とはいえ、相手方の女性が行った行為によって夫婦関係に亀裂が入っているのですから、相手の女性に対して慰謝料を求めたいところです。
この点について判断を示した裁判例として、東京地方裁判所平成17年11月15日判決があります。その判決では「婚姻関係にある配偶者と第三者との関わり合いが不法行為となるか否かは,一方配偶者の他方配偶者に対する守操請求権の保護というよりも,婚姻共同生活の平和の維持によってもたらされる配偶者の人格的利益を保護するという見地から検討されるべきであり,第三者が配偶者の相手配偶者との婚姻共同生活を破綻したと評価されれば違法たり得るのであって,第三者が相手配偶者と肉体関係を結んだことが違法性を認めるための絶対要件とはいえないと解するのが相当である」とされました。つまり、肉体関係をもったという意味での不貞行為がない場合であっても、婚姻共同生活を破綻に追い込むような行為を行えば、不法行為(違法行為)となることがあり、その場合には損害賠償責任を負うことが明らかにされたのです。
今回の事例でも肉体関係があるとまでは断定できず不貞行為とまではいえなくとも、相手方の女性の行動によって夫婦の婚姻共同生活が破綻したといえるような場合には損害賠償(慰謝料)を求めることができることになります。慰謝料の金額等については具体的な態様などにもよりますので、一概に申し上げることはできません。しかし、今回の相談例のように不貞行為の存在を明らかにできなくても慰謝料を請求できる場合もありますので、万が一そのような事態に遭遇したら弁護士等にご相談ください。