【相談の内容】
相談者であるAさんは、森林を所有していました。近時の大規模災害のニュースを見聞きしているうちに、自分の所有する森林になにかがあったらどうしようと心配になりました。特にAさんが所有する森林に隣接した土地には家が建っており、万が一倒木などで家や人に損害が発生してしまったらどうしようかと心配になったのです。
【 回答】
倒木等によって森林所有者がどの範囲で責任を負うのかについて参考になる条文として、民法717条があります。同条文では、第1項で「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。」と規定され、その第2項で「前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する」とされています。
この条文によれば、万が一他人に損害を与えてしまった場合には森林の占有者が責任を負い、森林の占有者が損害発生防止措置を講じていたときには森林の所有者が責任を負うということになります。ただ、今回は森林を誰かに管理させていたわけではありませんので「占有者」は存在せず、土地の所有者であるAさんが責任を負う可能性があることになります。
そしてAさんのような森林の所有者が責任を負うのは「竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合」になります。「瑕疵」とは通常有すべき安全性を欠いていることをいうとされています。今回のような森林の場合には、木が傷んでいたり、土砂崩れが起きていたりするなど、倒木等の恐れがあるような場合に瑕疵があるとされる可能性があります。したがって、一見してなんの問題もなかった木が、近時の異常な豪雨等によって倒木したような場合には原則として責任は問われないと思われます。ただし、一度豪雨を経験したことで倒木等の恐れが出てきたのであれば、適切な対応(伐採、地盤の強化、防護ネットや柵の設置など)を行わなければ責任を負わされることもあります。
相談者の方には、一度森林を森林組合の方に点検してもらい、倒木の恐れがあるものについては伐採などを行ってもらうように助言しました。今回のような森林に限らず、空き家が倒壊するなどして隣地に迷惑がかかった場合にも今回と同様に問題となりますので、不動産を所有されている方は今一度管理状況に問題がないか、確認されてはいかがでしょうか。