結婚を約束していた婚約者から、突然「いろいろ考えたんだけど、君とは結婚できない。別れてくれないか」と言われてしまいました。理由はよくわかりませんが、どうやら交際相手は結婚が具体化するうちに家庭を持つことに不安になってしまったようです。突然このようなことを言われてしまい、私は大変なショックを受けました。お金で解決できるものではありませんが、交際相手に慰謝料を請求することはできないのでしょうか。
婚約とは将来婚姻するという約束ですから、法律上も「契約」の一種です。 契約を守らなければ債務不履行として損害賠償の請求ができることになります。しかし、婚約は一般の契約とは異なり、絶対に結婚するというものではなく、結婚の成立に向けて誠実に努力するという道義的色彩の強いものであると言われており、結婚が成立しなかったからといって直ちに損害賠償責任が発生するというものではありません。損害賠償責任が発生するのは、婚約が「不当に破棄」された場合に限られるのです。
婚約を破棄された側からすれば、すべて「不当に破棄」と感じられるかもしれませんが、これまでの裁判例の集積によってある程度の線引きがなされています。婚約が破棄された事例でも、①婚約を破棄する理由が相手方が別の異性と関係をもっていることが発覚した場合、②相手方の暴力や暴言が理由となる場合、③経済状況や家族状況が大きく変化した場合など今後婚姻をすることが社会通念上困難な状態となることが認められる場合には婚約を破棄する正当な理由があるとして慰謝料請求は認められない傾向にあります。一方で、このような正当な理由がないにもかかわらず、「気が変わった」などの理由で婚約を破棄することは正当な理由がないものとして慰謝料請求が認められる傾向にあります。
今回の相談例のように将来の不安という漠然とした理由のみでは正当な理由があるとはいえないものと思われます。ただし、相手方の生活状況に大きな変化があった(たとえば職場を解雇され生計の見通しがたたない、親が亡くなり残されたもう一方の親と同居しなければならなくなったなど)場合には婚約破棄の正当な理由があるとされる場合もあります。具体的な慰謝料の額についても、「不当」といえる程度によることになりますので、一概にはいえません。
婚約を突然破棄されるなどという経験はしたくないことですが、万が一そのような事態に遭遇したら弁護士等にご相談されてはいかがでしょうか。