本年10月に発生した台風19号を原因とする浸水などによって,福島県内でも甚大な被害が発生し,避難を余儀なくされた方だけでなく,住み慣れた住居から退去せざるをえなかった方もいらっしゃると思います。
被災した住居が貸家やアパートなどの賃貸物件である場合,大家(賃貸人)との間でトラブルが発生することもあります。実際に弁護士への相談があった,賃貸物件に関するトラブルを紹介します。
1.浸水したことを理由に賃貸物件からの退去を求められている・・・。
賃貸物件である住居が浸水による被害を受け,建物の修繕が必要になったなどの理由で,大家から住居からの退去を求められるという事態が県内でも少なからず発生しているようです。しかし,このような大家からの要求に当然に応じる必要はありません。
つまり,大家との間で建物の賃貸借契約を結んだ場合,大家は,借主に対して建物を使用させる義務を負うとともに,建物の修理をするなどして,建物を借主が使用できるような状態にしておく義務を負っています。したがって,台風によって建物がそもそも修理すらできないような状態になってしまった場合は別として,大家は建物を修理して借主が使用できるような状態に戻さなければなりません。
そうすると,大家が「修理しなければならない。」ということを理由として借主に対して退去(賃貸借契約の解除)を主張するのは,自らの契約上の義務に反して借主の生活の本拠を奪うことに等しく,退去を求める正当な理由とはなりません。修理のためにあくまで一時的に退去を求められた場合を除き,修理が可能な状態であれば,借主が退去に応じる必要はありません。
2.賃貸物件を退去したが多額の原状回復費用を請求されている・・・。
賃貸物件である住居が浸水したなどの理由で住居を自主的に明渡し,別の住居に転居した後に,浸水により住居の原状回復が必要になったなどとして,前の住居の大家から多額の原状回復費用を請求されるというトラブルも発生しています。この場合も,大家からの要求に当然に応じる必要はありません。
つまり,借主が負担しなければならない原状回復費用は,借主が故意・過失などによって,「普通に使用していた場合には生じないような損傷」を生じさせた場合に,その損傷を復旧するために必要となる費用に限られます(国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」等参照)。そうすると,普通に使用していれば生じるような傷や,借主ではなく自然災害が原因で生じた損傷などについて,借主が原状回復費用を負担する理由はありません。
したがって,台風による浸水が原因で生じた修繕費用等は,借主側の落ち度により被害が拡大したといえるような事情がある場合は別として,その建物の持ち主である大家が負担すべきものであり,借主が原状回復費用として負担する理由はありません。また,借主が契約締結時に敷金を支払っている場合には,大家に対して敷金の返還を請求できる場合もあります。
以上のように,現在も台風の被害によって様々なトラブルが起きています。中には悪質な業者が関わっている場合もありますので,慎重な対応を心掛け,自分だけで判断してしまうのではなく,弁護士などの専門家へ早期に相談することをお薦めします。