様々な事情から夫婦が離婚することとなった場合、たくさんのものを清算する必要があります。特に大きな問題となるのが財産関係です。夫婦生活が長期に及んでいる場合には、夫婦の財産が様々な形で形成されていることがあります。
今回ご紹介する事例は、夫の未支給の退職金が問題となったものです。夫婦が離婚となった場合には、別居(あるいは離婚)時にそれぞれが保有している財産を合計し、そのなかから婚姻前に形成されていた財産や相続等によって個別に受け取った財産を除いたものを夫婦共有財産として半分ずつに分けるという形をとります。これが離婚に伴う財産分与の基本的な考え方です。
この夫婦共有財産は、通常は別居(あるいは離婚)時に存在していることが必要であり、将来受領する可能性がある財産は対象になるのかが問題となります。今回のような夫の退職金は、将来退職したときに受領出来るものであることから、財産分与の対象にはならないのではないかという疑問が生じます。一方で、退職金は長年にわたる勤務実績が算定の根拠となっており、そのように長年勤務できたのは妻をはじめとする家族のサポートによるところが多いと言えるでしょう。そこで、そのような家族(今回の場合には妻)のサポートを鑑み、財産分与の対象に入れられないのでしょうか。
この点について、裁判所は様々な考え方をとっていますが、一般的には退職間近で退職金受給が確実視されるような場合には財産分与の対象に含めるという扱いをしているようです。今回も定年退職まで数年であったこともあり、裁判所も夫の退職金を財産分与対象とすることを認めました。もっとも、退職金支給予定金額全額を含めるわけではなく、入社から定年までの勤務期間を分母に婚姻期間を分子にした割合で財産分与の対象とすることになりました。例えば、定年まで30年間勤めて初めて退職金がもらえ、婚姻期間が25年という場合には、退職金支給予定金額に30分の25の割合をかけた金額が財産分与対象財産に含まれることになるのです。このような扱いは、婚姻期間中は妻のサポートによって夫は就労に専念でき、そのサポートを退職金のなかで評価するというものであり、妻の家計への貢献を評価するひとつの方法といえるでしょう。退職金はかなりの額になることがあり、財産分与の対象になるか否かは重大な問題です。今回は退職間近であったこともあり、比較的解決が容易でしたが、退職までかなり時間があるような若い夫婦の離婚の場合には将来受給予定の退職金が算定対象になるかは難しい問題です。
財産分与については、このほかにも様々な問題があります。特に収入が少なかった側の配偶者には離婚後の生活を大きく左右します。当事者間での話し合いが円滑に進まないような場合には専門家の意見を聞いてみるのもひとつの方法です。