インターネットの掲示板サイトを見ていたところ,私への中傷が書き込みされているのを見つけました。名前は伏せられていましたが,見る人が見れば私のことだと分かるような形で,『元○○』など事実無根の中傷がされていました。知人の間でも書き込みが見られていて,生活や仕事にも影響しています。書き込みの削除や損害賠償を求めたいのですが,どうすればよいでしょうか
掲示板サイトやSNS(FacebookやTwitterなど)を通じた権利侵害が増加しています。明らかに脅迫罪などの犯罪に該当するものや,プライバシーや名誉権を侵害するものなど様々ですが,こうした権利侵害に対する対応は,大きく分けて3つくらいの方法があります。
① 刑事告訴など刑事上の手続
警察に被害届や告訴を提出するなどして,刑事処分(処罰)を求める方法です。書き込み自体が犯罪に該当する場合には,警察が捜査し,犯人を特定するなどして,刑事処分がされることがあります。ただし,犯罪性がはっきりしない場合など,捜査着手にまで至らないことも多く,また,刑事手続では,書き込みの削除や損害賠償を求めることはできません。
② サイト運営者への削除請求など
掲示板サイトやSNSの運営者に対して,削除請求をすることができる場合があります。多くのサイトでは,自主的な削除基準や削除請求の方法を定めていますので,サイトに定められた方法で削除請求をすることができます。また,「プロバイダ責任制限法ガイドライン」に基づいて削除請求ができることもあります。ただ,書き込みの内容などから削除請求者本人の権利が明白に侵害されていることが明らかな場合でないと削除されない場合も多く,ご質問のケースでは,削除請求に応じてもらえないことも考えられます。また,書き込みをした人を特定するための情報(発信者情報)は開示してもらえないことも多いため,書き込みをした人に対して損害賠償請求をする場合には向いていません。
③ 裁判所を利用した仮処分や損害賠償請求訴訟(民事上の手続)
裁判所を利用して,書き込みの削除や損害賠償を請求する方法があります。その手続は,2つの手順を踏む必要があります。まず,特定サイト運営者に対し,書き込みの削除や発信者情報の開示を求める仮処分などの法的手続をとります。裁判所で仮処分が認められれば,書き込みが削除され,また書き込みに利用されたIPアドレス(ネット上の「住所」にあたる情報)の開示を受けることができます。次に,このIPアドレスを割り当てているプロバイダを相手方とした仮処分などにより,当該IPアドレスを利用した人の契約者情報(氏名,住所等)の開示を求めます。こうした手続によって,書き込みをした人(複数のこともあります)を特定することができれば,この人(たち)を被告に,損害賠償を求める民事訴訟を提起することが可能になります。ただし,迅速に手続をとらないと,アクセスログ等の証拠が消去されてしまい,特定が不可能になる場合もあります。
裁判所を利用する方法は,複雑な手続を要し,法的知識やインターネットについての技術的知識も必要ですので,弁護士に依頼することをおすすめします。
このように,ネット上での権利侵害には様々な対処方法がありますが,それぞれ一長一短であり,事案やご要望(削除を求めるのか,賠償を求めるのかなど)に応じて適切な方法を選択する必要があります。書き込みがされてからなるべく早く,また,書き込みのされた証拠(書き込みのされたページのプリントアウトやスクリーンショットなど)を確保した上で,弁護士などの専門家にご相談されるとよいでしょう。