金融商品取引法違反と会社法違反の罪に問われていた、日産自動車の元CEOのカルロス・ゴーン被告が、保釈中に日本を出国しレバノンに逃走したことは多くの人を驚かせました。
今回は、この保釈制度について考えてみましょう。
一般的に、刑事事件の手続は、捜査段階と公判段階とに分かれます。刑事事件が発生すると、警察等の捜査機関が捜査し、容疑者と思われる人物を逮捕して身柄を拘束し、通常は引き続き身柄の拘束を継続して取り調べ等を行うため勾留請求することになります。捜査機関は、この逮捕勾留中に取調や捜索等の捜査を行い、犯罪事実の証拠を収集し固めることをします。その上で、検察官が収集した証拠等を吟味して起訴するかどうかを判断します。そして、ここまでの手続が捜査段階と呼ぶ手続になります。
この捜査段階においては、逮捕と勾留を合わせると、法律上、最大で23日間の身柄拘束が認められます。この間、被疑者は警察の留置場などで身柄を拘束されることになりますが、この期間は保釈の制度はありません。なお、被疑者が別な罪を犯しているような場合(余罪)は、その余罪についての再逮捕から勾留というケースが出てきます。この場合は、最初の逮捕勾留の事件に引き続いて別な犯罪での再逮捕勾留ということになりますから、23日間の身柄拘束は別にカウントされることになりますので、長期の身柄拘束という事態もあり得ます。
このようにして逮捕勾留を通じて捜査がなされ、検察官による起訴がなされた場合には、刑事事件は公判段階に移行することになりますが、被告人の身柄拘束は、保釈されない限りは継続します。公判段階では、被告人が犯したとされる犯罪事実について、検察官や弁護人側が提出する証拠に基づいて吟味され、有罪か無罪かが判断されることになりますが、刑事司法の大原則として被告人は無罪が推定されており、疑わしきは被告人の利益にという扱いになります。これは、間違っても絶対に無辜の者を罰してはならないという考え方によるものです。
公判手続は、このような被告人の無罪推定を前提に審理が進められる建前となっていますが、身柄拘束された被告人の実際はどうでしょうか。公判段階では、前記したように保釈制度が設けられています。保釈というのは、被告人が保釈保証金を支払うことによって、身柄を解放されることを言います。保釈された被告人は弁護人と事前に十分打ち合わせして公判段階に臨むことが出来るようになります。
しかし、保釈の実際は、かなり厳しいものがあります。保釈申請は、起訴されれば直ちに行うことが出来ますが、第1回の公判が開かれる前や共犯事件、無罪を主張するような事件の場合には、検察官が保釈に反対するばかりか裁判所も保釈を認めないことが多く、被告人の身柄が解放されることはあまりありません。
前記のように、被告人は無罪の推定を受けているにもかかわらず、保釈の実務ではそのような推定が働かないといわれても仕方がないような実態にあります。昔から「人質司法」として厳しい批判を受けてきたところです。
カルロス・ゴーン被告が保釈中に逃走したことは決して許されることではないですが、日本の刑事司法について批判を訴えている内容については、今一度考えてみてはいかがでしょうか。