2020年2月以降,日本国内でも新型コロナウイルスの感染が拡大し,4月上旬には国内感染者が4000人を超えました。4月7日には,安倍晋三首相が,東京や大阪など7都府県を対象として,「緊急事態宣言」を行いました。福島県内でも各地で感染者が発見されており,不安が広がっています。
自然災害などによって,社会に不安が広がっている状況の下では,不確かな噂やデマが拡散したり,差別意識や偏見に基づく言動などが見られることがあります。今回の新型コロナウイルス感染症に関しても,その診断や治療等にあたっていた医療関係者が暴言を受けたり,医療関係者のお子さんが保育園や幼稚園で登園自粛を求められるなどの被害が報告され,日本災害医学会が改善を訴える声明を発しています。また,薬店などでマスクの入荷がままならない状態が続いていることから,マスクを買い求めようとした顧客が,店員に暴言を吐くなどして「カスタマーハラスメント」などと呼ばれています。
福島県内では,教員の中から感染者が発見された大学に,抗議や嫌がらせの電話が殺到し,同大学の附属高校の生徒が通りすがりの人から「コロナ」と言われたり,職員がお子さんの保育を断られるなどの嫌がらせを受けていることなども報道されています。
嫌がらせまでいかなくとも,公共交通機関や多数の人がいる場所で咳やくしゃみが出てしまい,マスクをしたり肘で口元を覆うなどの咳エチケットを励行していても,他の人から白い目で見られたなどの経験をした方もいらっしゃるのではないでしょうか。
こうした嫌がらせなどをする人も,感染への強い不安や恐怖から,通常の冷静な状態であれば絶対にしない行動をとってしまっているのかもしれません。確かに,今回の新型コロナウイルスは,人類がこれまで経験したことのない未知のウイルスであり,目に見えず,しかも感染して重篤化した場合には死に至ることもありますから,不安になるのは当然と言えます。
しかし,感染を恐れるあまり,冷静な判断力や想像力を失ってしまっては,本末転倒ではないでしょうか。新型コロナウイルスについては未知の部分も多いですが,密集を避ける・手洗いや手指消毒,咳エチケットなどの対策をとれば感染の危険を減らせることなどは分かっています。もちろん,こうしたことに気をつけていたとしても,いつ誰が感染したり,濃厚接触者になってもおかしくはありませんから,感染が判明した人や関係者などを責めたり差別しても何の解決にもつながりません。それどころか,社会の分断やパニックを招いてしまいかねません。
いま求められていることは,一人一人が正しい知識を身につけ,冷静に,自分にできる対策をしっかりとって,感染リスクをできるだけ減らし,有効な治療薬やワクチンが開発されるまでの間に爆発的感染を起こさないようにすることだと思います。差別や偏見によって社会が分断されたりデマが拡散しているパニック状態は,こうした冷静な対応を妨げてしまいます。
9年前の東日本大震災の際は,被災者を含め多くの方が冷静な対応をとることによって,社会全体がパニック状態に陥ることが回避できました。今回の新型コロナウイルスについても,同じことができるはずです。事態の推移は予断を許しませんが,お互いに,可能な対策をとっていきましょう。
なお,当事務所では,相談や打合せの際に相談ブースの換気をする,相談等の終了後に相談ブースを換気し消毒する,所員が手洗いや手指消毒を励行し,相談や打合せ時にはできる限りマスクを着用するなど,感染拡大の予防策を講じています。また,発熱や風邪の症状のある方のご来所についてはご遠慮いただくことがあります。皆さまにご不便をおかけすることもあるかと存じますが,ご理解ご協力をいただければ幸いです。