1年前に母親が90歳で亡くなりました。相続人は,私と兄(兄が母親と同居していました)の二人です。母親は,数年前までは元気で,預金が1000万円もあると,預金通帳を見せてくれたこともありましたが,その後は足腰が弱くなり,自分で銀行に行くことができないので,同居していた兄に通帳を渡して管理してもらっていたようです。しかし,母が亡くなった後,母の預金残高を兄に聞いたら,300万円しかないということでした。母の生活費を考慮しても,兄が母の預金をかなり使い込んでいたのではないかと疑われてなりません。兄を相手方として遺産分割の調停を考えていますが,どのような解決があり得るのでしょうか。
高齢化の進行にともない,預金等を自分で管理することが難しいお年寄りが増加しています。高齢や認知症により自分で財産管理ができない場合,家庭裁判所で成年後見人等を選んでもらい,後見人等に財産管理をしてもらうこともできますが,事情により,同居の家族や親族が通帳などを預かって管理しているケースも多いかと思います。
さて,ご相談のケースでは,遺産分割の調停を考えておられるとのことですが,例えば,調停手続の中で,預金の取引履歴などの開示を受け,取引状況に不審な点がないか(例えば,兄が通帳を管理する前と後の引き出し額に大きな変化があるかなど)を調べるとともに,不審な点については,兄に引き出した預金の使途を問いただすなどをすることになります。その結果,例えば,兄が預金を自分の生活のために使用したことなどを認めたような場合,調停の中で任意に返してもらったり,あるいは生前贈与があったものとして,いわゆる「持ち戻し」によりあなたの取得額を増やすことなどによって解決することができる場合があります。
しかし,調停は,話し合いの手続きであり,しかも,遺産分割調停は,あくまで被相続人が死亡したときに現実に残っている遺産を相続人間で分ける手続ですので,生前の預金引き出しについて,兄が預金を自分の生活のために使用したことなどを認めず,最後まで使途がわからない場合には,遺産分割調停による解決は不可能です。
そこで,預金を勝手に引き出した兄に対する訴訟を提起し,その中で賠償請求ないし不当利得返還請求をすることが考えられます。この場合,兄が預金を勝手に引き出し,自分のために利用したことについて,裁判であなたが立証しなければならないとされています。こうしたことを立証するのは実際には難しい点がありますが,預金の取引履歴や母の生活状況(例えば元気だった頃の家計簿,病院のカルテや介護記録)などを手がかりにして立証できる場合もあります。
いずれにせよ,早めに弁護士などへの専門家にご相談されることをおすすめします。
また,ご相談のケースとは逆に,高齢の親族から資産管理などを任されているという方もいらっしゃるでしょう。この場合,ご本人が亡くなった後で,相続人の方から「使途不明金」などと追及されることもあり得ますので,適切に資産管理を記録し,その裏付けを保管しておく(例えば預金の使途についての領収書やレシートなど)ことを心がけるとともに,そうしたことが難しい場合には,裁判所で成年後見人等を選んでもらい,成年後見人等に資産管理を任せることも検討するとよいでしょう。