事案の内容
相談者のAさんの隣地には、立派な木が植えられており、きれいな花をたくさん咲かせています。その一方で、花が咲いたあとにはたくさんの花がAさんの土地に落ちてきます。花だけでなく、落ち葉も量が多く、隣の木から落ちてくる葉や花を掃除することがAさんの日課となってしまいました。よく見ると、隣人の木の枝がAさんの土地にはみ出してきているので、Aさんとしては枝を切って花や落ち葉が自分の土地に落ちてこないようにしたいと考えていますが、何か問題はあるでしょうか。
事案の解決
この問題を考えるにあたり、民法という法律には興味深い条文があります。民法233条には、「①隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる、②隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる」と定められています。この条文によれば、隣地の柿の木の実はたとえ自分の土地に張り出してなっていたとしても勝手に収穫してはならないことになりますが、隣の人が植えたタケノコがこちらの敷地内に生えてきた場合には収穫してよいことになります(もっとも、収穫したことによって木を枯らしてしまった場合には別途問題になります)。タケノコは枝になるものではなく、法律的には「根」であると考えられるからです。
さて今回のご相談の内容は、竹木の枝が問題になっています。さきほどの条文からすれば、「竹木の所有者に、その枝を切除させることができる」と定められていますので、自ら勝手に切除してはならず、隣人に切ってもらうように依頼することができるにとどまるということになります。もちろん、隣人が同意すれば実際に切除するのがAさんであっても構いませんし、その場合にAさんが剪定業者などに依頼した場合にはその費用を隣人に負担してもらうことも可能となります。
いずれにせよ、いくら迷惑がかかっているからといって、勝手に隣人の木の枝を切除してしまうことは問題となります。隣人関係は今後も長く続いていくことが一般的ですので、トラブルにならないように、隣人に被害の実情を説明して切除を依頼してみるように助言させていただきました。
今回は、枝にまつわるご相談でしたが、根にまつわる問題の場合にも民法上は勝手に切除してよいことにはなっていますが、切除したことによって木を枯らしてしまうこともあり得ますので、事前に隣人と話し合った上で実施したほうが紛争予防になると思われます。枝と根は法律上別個の取り扱いがされているという興味深い条文が問題になった案件でした。