2020(令和2)年9月30日、仙台高等裁判所で「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟(第1陣訴訟。以下「生業集団訴訟」といいます。)の控訴審判決がありました。同訴訟は、福島第一原発事故の被害者(原発事故当時、福島県内及び隣接県に居住していた人)3600名以上が、国と東京電力を被告として、福島原状回復と損害賠償を求めた訴訟であり、当事務所所属弁護士も原告代理人として活動してきました。
2017(平成29)年10月10日に言い渡された第一審判決(福島地方裁判所)は、国と東京電力が事故を予見できたこと、適切な対策をとっていれば事故を防ぎ得たと判断し、国と東京電力に事故についての加害責任があると認め,福島県の県南地域や茨城県の一部地域の原告にも賠償を認めるなど中間指針等に基づく賠償対象地域よりも広い地域を賠償の対象とし、「自主的避難等対象区域」等の原告について賠償金の上積みを認める判断をしましたが,国と東京電力の控訴により,仙台高裁で審理が続けられてきました。
仙台高裁判決は,「『長期評価』の見解等の重大事故の危険性を示唆する新たな知見に接した際の東電の行動は,当該知見をただちに防災対策に生かそうと動いたり,当該知見に科学的・合理的根拠がどの程度存在するかを可及的速やかに確認したりせず,新たな防災対策を極力回避しあるいは先延ばしにしたいとの思惑のみが目立つものであったといわざるを得ず,東電の義務違反の程度は,決して軽微といえない程度であったというべきである」とし,東電の過失を厳しく断罪しました。国の責任についても,「不誠実ともいえる東電の報告を唯々諾々と受け入れることとなったものであり,規制当局に期待される役割を果たさなかった」として,国の責任を厳しく指摘しました。また,仙台高裁判決は,このような判断に基づいて,東電の責任に比べれば国の責任は二次的補充的なものであるとした第一審判決の判断を取り消して,国にも東電と同等の責任があったと判示しました。このように,仙台高裁判決は,国と東京電力の責任を厳しく指摘しましたが,原発事故についての国の責任を問う集団訴訟としては,初の高等裁判所での判断であり,今後の集団訴訟の控訴審での審理や判断にも大きな影響を及ぼすものと言えます。
また,損害賠償について,仙台高裁判決は,①避難指示等の対象区域に居住していた原告については,第一審判決が事実上否定した「ふるさと喪失損害」を認め,賠償額を大幅に上積みしました。また,②避難指示等の対象区域外に居住していた原告については,地裁判決よりも広い範囲について損害賠償を認めました。
全ての地域について救済の対象とする判断ではなく、また賠償認容額についても求めていた水準に達していない部分もあり不十分な点は残りますが,第一審判決と比較して対象地域の拡大や賠償水準の上積みを認めた点は、広く被害者の救済を図るという意味においても、前進と評価することができると思います。
原発事故から9年半が経過し,事故の「風化」などが言われることもあり,また,被害者の中にはつらい記憶を忘れて前に進みたいという方もいらっしゃると思います。しかし,今回の判決は,事故についての責任を明確にし二度とこのような事故が繰り返されることのないようにと願って裁判に加わった原告ら被害者の思いを,裁判所が正面から受け止め,「規制を怠って事故を引き起こし多数の人を苦しめたことへの法的責任が国にあるのだから,国は,賠償や汚染の処理,廃炉や地域復興などについて,東電や地元自治体任せにするのではなく,最後まで責任を持って行え」という強いメッセージが込められたものであると思います。その意味で,仙台高裁判決は,原発事故からの地域復興などの課題についても,大きな影響を持つものと言えます。
原告団は,いま,国と東京電力に対して,「自らの責任を認め,仙台高裁判決に対して上告せず確定させよ」と求めています。これからも,原告団や弁護団への支援をお願いいたします。
なお、判決の内容などについて、詳しくは弁護団HP(http://www.nariwaisoshou.jp/)をご覧ください。