事案の内容
相談者のAさんは3人兄弟の真ん中でしたが、先日父が亡くなりました。母はそれ以前になくなっており、父の財産を兄弟3人で分けることになりました。ところが、父が亡くなる直前に出入りしていた兄が49日の法要を終えた頃にやってきて、「父の相続は任せろ。100万円をやるから、これにサインしてくれ」と遺産分割協議書なるものを持ってきました。その際の説明では父の預貯金はほとんど残っておらず、あとは不動産のみであるとのことでした。預貯金の現在の残高は見せてもらいましたが、生前の父の様子からすればもっと預貯金があったはずだと思うとのことです。兄に説明を求めましたが、兄は怒ってしまい話になりませんでした。Aさんは兄の提案を受け容れるべきか迷い、当事務所にご相談にいらっしゃいました。
事案の解決
今回のお父様の相続については、相続人がAさんを含めた3人の兄弟ということになります。お父様は特に遺言書を残されなかったようなので、原則としては兄弟で3分の1ずつを分割取得することになります。相続分を3分の1ずつとすることについては特に問題はなかったのですが、今回問題となったのは遺産の範囲でした。
調査の結果、たしかに現時点でお父様名義の預貯金口座に残高はほとんど残されていませんでしたが、履歴を取り寄せてみると、お父様が亡くなった直後に多額の金銭が引き出されていることが分かりました。このことについて、財産を管理していたと思われる兄に問い合わせたところ、葬儀費用等に利用したとの説明でした。しかし、葬儀費用でも使いきれないほどの金額であったことや、葬儀の際に兄が受領した香典の取り扱いがどうなっているのかが不明でした。
これらの不明点を兄に説明してもらったところ、お父様の財産はその大半が現金化されて兄のもとに保管されていることがわかりました。このような状態でそのまま形式的に現在の残高で遺産分割を行うことは、不合理に思える状況となりました。そこで、Aさんは兄がお父様が亡くなる直前におろした金額のうち、葬儀費用(香典を除く)を控除した残りの金額(つまり兄の手元に残されている父の財産)についても改めて分割の対象とするように求めました。
はじめは渋っていた兄ですが、結局当初の提案金額の100万円から大幅に増額する金額をAさんに支払うことで和解となりました。
遺産分割にあたって、遺産の範囲は問題となることが多いものです。今回のように生前被相続人の面倒を見ていたり、財産を管理していた人がいる場合、その他の相続人にとってはどのように遺産が管理されていたのか不明であることが多いと思われます。このような場合に、不明点を明らかにせずに遺産分割協議を行ってしまうと、あとで後悔することにもなりかねません。遺産分割協議書に署名する場合には、疑問点がない状態にしておく必要があり、そのことを改めて認識させてくれた案件でした。