新型コロナウイルスの感染拡大が続いており,我々市民の生活には大きな影響が及んでいます。その中でも,生活に直結する労働に関する問題はとくに深刻です。そこで,労働者にとって知っておきたいルールや制度をいくつかご紹介したいと思いますので,参考にしていただければと思います。
⑴ 新型コロナウイルスの感染予防として会社が労働者を休業させた場合の手当
原則として,勤務していない日(あるいは時間)の賃金は支給されませんが,会社側の都合で労働者が休業せざるを得なかった場合,会社は,休業させた日や時間について,平均賃金の6割を休業手当として労働者に支払わなければなりません(労働基準法第26条)。したがって,感染予防のため,会社の判断で休業を命じられた場合には,この休業手当を会社に請求することができます。
緊急事態宣言が発令された場合であっても,会社が休業手当の支払義務を免れるとは限りません(厚労省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」参照)。緊急事態宣言に基づく要請や指示の内容,事業の継続が自宅勤務などの考えられる方法を尽くしても困難な状態にあるのかなど,個別具体的な事情を考慮した上で,会社側の都合による休業なのか,不可抗力による休業なのかが判断されることになります。
なお,会社が休業手当を支払わない場合には,労働者の申請により国が賃金の8割(上限は33万円)を労働者に直接支給する「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」という制度がありますので,こちらの制度の利用もご検討ください(詳しくは厚労省のホームページ等をご参照ください。)。
⑵ 感染者の濃厚接触者と認定されたため自宅待機を命じられた場合の手当
この場合も会社側の都合による休業か否かが問題となりますが,濃厚接触者が必ずしも新型コロナウイルスに感染しているとは限りません。したがって,濃厚接触者を自宅待機させるかどうかは,あくまで会社側の都合によるものと考えるべきであり,この場合も休業手当の支給がなされるべきです。
なお,在宅勤務を命じられた場合には,就業場所を自宅等として勤務をしており,休業ではありませんので,勤務時間等に応じた賃金全額を請求することができます。
⑶ 新型コロナウイルスに感染し,仕事を一定期間休業することになった場合の手当
休日など,業務外で新型コロナウイルスに感染したことにより休業した場合には,休業は会社側の都合によるものとはいえませんので,休業手当は請求できません。もっとも,会社の就業規則等に基づく手当の支給を受けることができる場合もありますので,勤務先の就業規則を確認しておきましょう。また,会社からの手当てがない場合でも,加入している健康保険に申請をすれば,休業4日目以降の賃金の2/3の補償(傷病手当金)の支給を受けることも可能です。
業務中に新型コロナウイルスに感染した場合には,「労災」として,法律に基づいて一定の給付(医療費,休業補償)を受けることができます。労災と認められるためには,業務遂行中(通勤中も含む)に業務に起因して感染したことが認められなければならず,感染リスクの高い労働環境であったかなど,具体的な事情を踏まえて判断されることになります(新型コロナウイルスに関しては,労災認定がされやすい運用を求める通達が厚労省から発出されています)。まずは勤務先の会社や労働基準監督署,弁護士などに相談してみましょう。
なお,労災が疑われる場合であっても,前述した傷病手当金の受給申請をあわせて行うことも可能です。
⑷ 新型コロナウイルスの影響による解雇
原則として,期間の定めのない労働者の場合,会社は労働者を自由に解雇することはできません。解雇は,正当な理由がある(客観的合理的理由があり,社会的に相当といえる)場合にのみ行うことができます(労働契約法16条)。
新型コロナウイルスの影響により経営不振に陥り,人員削減のために解雇するような場合には,労働者には責任がありませんので,解雇に正当な理由があると認められるためには非常に高いハードルがあります。
具体的には,①人員削減の必要性,②各種公的支援制度の活用・賃金の減額・配置転換・希望退職者の募集など,解雇を回避するための努力が尽くされているか,③解雇される労働者の選定基準とそれに基づく選定が合理的であるか,④事前に解雇される労働者への説明や話し合いが尽くされているか,などの事情を考慮した上で,正当な理由があるといえるか判断されることになります。
したがって,会社側としては,一時的な経営の悪化などの事情のみでは労働者を解雇することは難しいといえます。解雇を通告された場合には,弁護士や労働組合などに相談するといいでしょう。
なお,会社から解雇と告げられているにもかかわらず,退職届の提出を要求されたというような場合には,後から「自発的に退職した。」と主張されることを防ぐため,退職届を提出しないように注意してください。
⑸ 新型コロナウイルスの影響による内定取消し
採用内定の段階においても,法律上は労働契約が成立していますので,内定取消しは解雇と同様に扱われます。したがって,上記⑷にて述べた事情を考慮して正当な理由があるかどうかが判断されることになり,単純に経営上の必要があるというだけでは内定取り消しは認められないこととなります。
⑹ 新型コロナウイルスの影響による有期雇用契約の雇止め
契約期間があらかじめ決まっている,いわゆる有期雇用の労働者について,期間満了時に契約終了を告げられた場合(「雇止め」)であっても,場合によっては契約終了を争うことができます。
例えば,①契約期間は定められているものの,過去に何度も更新を重ねており,実質的には無期雇用の労働者と変わらないような状態となっていた場合や,②会社側の対応,勤務状況等から,労働者が更新を期待することについて合理性がある場合には,前述の解雇の場合と同じように,雇止めについて正当な理由が必要となります(労働契約法19条)。正当な理由があるか否かについての判断基準は解雇の場合と同様です。
このように,事情によっては雇止めを争うことができる場合もありますので,「期間が満了したから…」と雇止めを安易に受け入れてしまわず,弁護士や労働組合などに相談しましょう。
なお,有期雇用の労働者を期間の途中で解雇する場合には,解雇することに「やむを得ない事情」が必要とされ,無期雇用の場合より解雇することが難しくなります(労働契約法17条)。
⑹ 新型コロナウイルスの影響による失業
失業して収入減を失い,生活に困っているという場合は,生活支援のための制度を活用することをためらわないでください。いくつかの制度と相談窓口を紹介します。
・失業手当(ハローワーク)
・生活福祉資金貸付制度(市町村の社会福祉協議会)
失業により生活に困窮している世帯に,単身の場合月15万円,2人以 上の世帯の場合月20万円を上限に貸付けを行う制度
・生活困窮者住宅確保給付金(市町村の自立支援相談窓口)
離職・廃業や,個人の責任によらない収入減少により,住居の確保が困難となっている個人に対して家賃補助を支給する制度
・生活保護(市町村の福祉事務所)
・社会保険料や税金,各種公共料金の支払い猶予(各支払先の問合せ窓口)
新型コロナウイルスの感染拡大状況は続いており,収束の目途はいまだ立ちません。苦しい状況に立ったときには,一人で悩まず,弁護士に相談することを検討してください。