裁判員裁判とは,市民の中から選ばれた「裁判員」が,刑事裁判に参加する制度です。裁判員は,刑事裁判の審理に参加して,被告人が有罪か無罪か,有罪だとすればどのような刑を科すかについて,裁判官と共に判断をすることになります。この制度は平成21年から始まっており,みなさんもテレビ,新聞等で見聞きしたことがあると思います。
今回は,裁判員に選ばれるまでの流れや,裁判員の仕事などについて,簡単に解説します。
1.裁判員に選ばれるまで
各地の地方裁判所は,毎年,管轄する地域の市町村の20歳以上の市民の中から,くじで選ばれた方を裁判員候補者名簿に登録します。裁判員候補者名簿に登録された方には,11月頃に「裁判員候補者名簿に登録された」との通知が届きます。
そして,裁判員裁判の対象となる特定の重大事件(例えば,殺人,傷害致死,放火など)の刑事裁判が始まる前に,その事件について裁判員となる候補者を裁判員候補者名簿の中からくじで更に絞り込みます。くじで選ばれた裁判員候補者には,裁判所から選任手続期日のお知らせが送付されます。
お知らせを受け取った方は,裁判所が辞退を認めた場合を除き,指定された選任手続期日の日時に裁判所へ出向くことになります。選任手続期日においては,裁判官が候補者に対して,不公平な裁判をおそれがあるかどうか,辞退を希望するか(その理由)について,裁判員候補者に対する質問によって確認します。
このような手続きを経て,裁判所が,裁判員6名と,必要があると判断した場合には補充裁判員(裁判員に欠員が出た場合の予備の裁判員)を選任します。
2.裁判における役割
裁判所により選任された裁判員は,裁判官と共に刑事裁判の審理に立ち会うこととなります。裁判員裁判以外の刑事裁判の審理は,数週間に一度ほどの頻度で行われるのが通常ですが,裁判員裁判の場合は,裁判員の負担も考慮して,短期間に集中して審理が行われるのが原則です。そのため,裁判官や検察官,弁護人は,裁判が始まる数か月前から,裁判の争点を整理して審理を迅速で分かりやすくするための手続きを事前に行っており,審理自体は5日程度で終わることが多いです。
審理においては,証拠を取り調べたり(主に証拠書類の読み上げ),証人や被告人に対する質問などの手続きが行われます(裁判員が直接証人や被告人に質問をすることも可能です)。
これらの手続きが終了した後は,裁判官と裁判員とで議論(評議)をし,被告人について有罪か無罪か,有罪だとすればどのような刑を科すべきかについて決定(評決)することになります。評決は,裁判官と裁判員の多数決によって行われます。ただし,有罪判決など,被告人に不利な判断をする場合には,裁判官1名以上が多数意見に賛成していることが必要とされています。なお,評議と評決の内容は,裁判官と裁判員以外に知らされることはありません。
このような過程を経て,被告人に対する判決の内容が決定され,裁判長が法廷にて被告人に判決を宣告することで,裁判員の職務は終了します。
3.裁判員の辞退や仕事への影響
裁判員に選任された場合,原則として辞退することはできません。ただし,70歳以上の方や,重い病気やけがのある方,親族・同居人の介護・養育等のやむを得ない理由がある場合には,例外的に辞退することができます(「仕事がある。」といった理由のみでは辞退することはできません)。
仕事を休むのが難しいと考える方もいらっしゃるとは思いますが,裁判員を務めるために必要な休みを取ることは法律で認められており(労働基準法7条),裁判員を務めるための休みを取ったことを理由に勤務先が解雇などの不利益な処分をすることは法律で禁じられています(裁判員法100条)。また,裁判員裁判員や裁判員候補者等として裁判所に行った場合には,交通費や日当(裁判所と自宅の距離によっては宿泊費)が支給されます。
4.最後に
裁判員裁判制度が始まってから10年以上が経過していますが,まだまだ多くの人にとって馴染みの薄い制度であり,裁判員に選任されることに負担を感じる方も多いと思います。しかし,裁判員として刑事裁判に参加することにより,裁判官が有罪か無罪かをどのように決めるのか,どのような観点から刑を決めていくのか,その過程を体験することができ,市民の皆様にとっては,裁判制度への理解を深める貴重な機会となるはずです。
裁判員裁判においては,裁判員の負担を可能な限り軽くできるよう,裁判所だけでなく,弁護士,検察官も配慮をして手続きが進められますので,選任された際には一つの貴重な経験だと思って参加していただければと思います。