私には長年連れ添った内縁の夫がいるのですが,ここ数年,夫との気持ちのすれ違いが大きくなり,関係を解消することになりました。私が使用している自動車は夫の名義なのですが,今後の生活に必要なので,私の名義に変えて引き続き使いたいと夫に話しました。しかし,夫からは,「これは俺の名義だから俺の財産だ。」と拒まれてしまいました。購入当初から私が使っていた自動車ですし,関係解消に当たってせめて自動車だけでも貰うことはできないのでしょうか。
「内縁」とは,社会的には夫婦としての共同生活を営んでいるものの,婚姻届けを提出していないために法律上の婚姻とは認められない関係を指す言葉です。内縁関係が成立しているか否かは,双方の意思のみならず,共同生活の期間や,結婚式を挙げたか,家族等の周囲から夫婦として認識されているか等の客観的事情も踏まえて判断されます。
裁判例においては,内縁は事実上の婚姻として捉えられており,法律上の婚姻にのみ適用される,氏の変更(民法750条)や,子の嫡出推定(民法772条),相続権(民法890条)といったルールを除けば,内縁関係についても法律上の婚姻とほぼ同等の保護がなされます。例えば,夫婦の同居義務(民法752条),貞操義務は,内縁関係にあっても法律上の婚姻と同様に課されるため,正当な理由なく同居をしない,あるいは不貞行為を行ったというような場合は,夫婦間の義務に反することになり,場合によっては慰謝料請求などがなされることがあります。
法律上の婚姻においては,夫婦が離婚する場合,夫婦の一方が他方に対して財産分与を請求することが認められますが(民法768条),内縁の夫婦が内縁関係を解消する際にも財産分与請求は認められます。ご質問の場合,夫名義の自動車が夫婦の協力の下で取得した財産であるといえるのであれば,財産分与の対象財産となります。したがって,例えば,夫に対し,他の財産の分与を請求しない代わりに自動車の所有権を財産分与として取得したい,などと求めることはあり得るでしょう。