事案の概要
A社が運搬作業等に使用する車両(大型トラック)が故障したため,B社のレッカー車が車両を修理工場まで運んでいたところ,レッカー車の運転手の不注意により事故が起き,A社の車両は大破し,修理不能の状態となりました。
そのため,A社は,事故車両の代わりとなる車両を新たに購入する必要が生じましたが,車両を探して納車を受けるまでに数か月は要するとのことあり,新たな車両の納車を受けるまでの間の業務を行うための代車としてトラックをレンタルすることとしました。しかし,事故車両と同等の中古車両はなかなか見つけられず,代車の使用期間は長期化していき,事故の発生からA社が新たな車両の引渡しを受けるまでには1年以上の時間がかかりました。これだけの時間を要したのは,事故車両と同じような大型トラックは中古車市場ではほとんど出回っておらず,車両を見つけることが難しかったため,中古車ではなく新車の製造を発注したことによるものです。
そうしているうちに,A社は,B社から一定の金額以上はA社に賠償をする義務がないことの確認を求める訴訟を提起されました(事前に簡易裁判所にて調停を行いましたが不調に終わりました)。
事案の解決
A社としては,過去の裁判例等からすると,1年もの間の代車使用料の賠償請求が認められる可能性は低いと思われたことから,その半分の半年程度の期間の代車使用料の賠償を求めることとしました。そして,大型トラックについては出回っている中古車が少ない上に,今回の車両と同じ仕様の物となると更に中古車の数は少なくなるので,新たに車両を調達するまで相当な期間(新車を購入するとなると更に長期間)を要すること等を主張し,A社の代表者やA社のトラック等を取り扱っている会社の営業担当も法廷において同様の証言を行いました。しかし,最終的には,ある程度仕様が共通する車両であればより短期間で調達可能であり,全ての仕様について同一の車両を調達する必要性までは認めがたいとの裁判官の心証を示され,請求額から相当程度譲歩した上で(代車使用料については3か月分程度),和解を成立させました。
事故により車両が損傷を受け,修理に一定期間を要したり,あるいは車両の買替の必要が生じた場合など,代車が必要となることは少なくありません。事故による賠償を請求するに当たっては,実際に代車を使用したすべての期間の使用料を当然に請求できるわけではなく,買い替えの場合,通常であれば新たな車両の納車を受けるまでに要する合理的な期間はどの程度かを検討することになります。ケースバイケースではありますが,一般的な自家用車であれば1,2か月程度で納車を受けることは可能と考えられるでしょう。A社の件については,大型トラックであり,一般的な自家用車とは異なり,条件に合う中古車を探すには時間がかかるという事情はありますが,それでも半年,1年といった期間の代車使用料の請求が認められるケースは極稀だと思われます。