子どもは婚姻中父母が共同で親権者となりますが、父母が離婚する場合には親権者をどちらかに決めなければなりません。離婚にあたって父母のどちらが親権者となるのか、争いになることも多いところです。
今回ご紹介する事例は、親権者の帰属をめぐって激しく争われた事件です。
家庭には夫婦の間に子どもが2人いました。母は子育てのストレス等からか、夫に強く当たるようになり、夫は激務の中で懸命に子育てを手伝ってきていましたが、妻からのモラハラに限界になり、出奔してしまいました。残された母は子ども2人を育てていましたが、こちらも限界になり、ある日子どもたちを車に乗せて、そのうちの一人を父の実家の前に置き去りにするという事件を起こしました。子どもは父の実家で祖父母に保護され、安定を取り戻しました。出奔していた夫も、子どもが実家に置き去りにされたことを聞き、父親としての責任感から実家に戻って子どもとともに生活する決意を固めました。
一方で、子どもを置き去りにした妻でしたが、その後離婚の話し合いの際に子どもたち(自分のもとで養育している下の子どもだけでなく、置き去りにした上の子どもも含めて)の親権を主張しました。夫としては、下の子どもの親権はともかく、置き去りにされた上の子どもについては夫も親権を譲らず、当事務所は夫から依頼を受けて対応することになりました。
この件は、双方に弁護士がつき、訴訟にまで発展することになりました。裁判所は置き去りにした事実を重視し、夫の元で子どもが順調に生育していることなどから、上の子どもについては親権者を夫とする判断を下しました。現在の裁判実務は、子どもの親権者をどちらにするのかについては、基本的には現状維持であると考えてよいと思います。子どもが現在置かれている環境を大きく変えることは子どもにとってもよくないという考え方によるものです。例外的に子どもが虐待を受けているなど、子どもの現状が子どものために好ましくない場合には現状を変える判断をする可能性もあります。経済的な豊かさや離婚原因などが主張されることも多いところですが、経済的な格差の問題は養育費等で補完すべき問題であり、離婚原因については離婚の原因を作った側であったとしても親権者になれないというわけではないと考えられます。
子どもにとって、両親のもとで育つことが一番であることは言うまでもありません。様々な事情から父母が離婚となった場合でも、子どもの幸せを第一に考え(父母の希望ではなく)、親権者を決めることができるように法制度は整備されています。今回の事件では、判決確定後、父のもとで元気に子どもが育っているようです。実の母親に置き去りにされたという事実は幼い子どもにとって大きな衝撃であったと思われます。父や父方祖父母の温かい愛情によって、傷ついた子どもの心が少しずつ癒され、安定した生活を取り戻せたことは、不幸中の幸いでした。
親権をめぐる紛争は、「子どものため」といいながら、次第に両親(あるいは両家)の主張合戦となることも多いところです。夫婦の不和は子どもに大きなストレスとなります。さらに親権問題で大きなストレスを子どもたちにかけることがないように、我々法律家も事件処理のなかで意識しています。