相談者は、以前は自分で建築関係の仕事を自営していましたが、経営的にうまくいかず廃業し、知り合いの業者に雇ってもらいながら生活費を稼いでしました。ところが、雇用契約書も作成せず,雇用条件通知書なども交付してもらえないなど、雇い主の意のままに働かされるようになりました。ときには理由なく罵声を浴びせられるなどパワハラ行為も繰り返されることになり、相談者は徐々に体調が悪くなり医療機関を受診した結果、適応障害と診断されてしまいました。
しかし、相談者は雇い主が怖くて退職を言い出すことも出来ず、体調が悪いにもかかわらず休みも取れず、雇い主の言いなりに就労を強いられた結果、いよいよ体調が最悪の状態になり、朝起きることすら困難な状態になりました。それでも雇い主は出勤するよう連絡を寄越したりするので、相談者は意を決して当事務所に相談に来ることになりました。
このケースは、雇用契約書の作成はおろか雇用条件を明示した書面の交付もないなど、労働基準法の予定する事業所とはかけ離れた状況の職場における労働者の相談でした。相談者は雇い主に対して恐怖心を抱いており、雇い主の意に反することを言うと何をされるか分からないというような考えに支配されていました。このため、仕事を辞めたくても言い出せず、また、雇い主の罵声を聞くのも嫌なので唯々諾々と雇い主の言いなりになって心身のバランスを崩してしまっていました。
体調悪化した相談者の話を聞く中で、取りあえずは心身の不調を回復させることを優先させ、その間雇い主から連絡が入ることも防がなくてはなりませんでした。そこで、相談者の意思を確認した上で、弁護士が代理して雇い主に対する退職の意思表示をすることになりました。
雇い主は、就業規則を定めているわけでもなく退職の手続規定もないようでしたので、民法の規定に基づいて雇用契約の解除、すなわち退職の意思表示を内容証明郵便で行い、2週間が経過したら雇用契約は終了すること、終了するまでの2週間は就労不能を理由に休むこと、過去の未払賃金を支払うよう通告しました。
その結果、雇い主はこれを受け入れ、未払賃金の精算にも応じました。相談者は取りあえず眼前のストレスから解放されて体調の回復に集中することが出来るようになりました。