A社から、令和5年4月に支店長として雇用した人物Bを同年10月に解雇したことについて、元支店長Bが委任した弁護士から解雇は違法だから損害賠償として約250万円を支払えとの内容証明郵便が届いたとの相談を受けました。
事情をうかがいましたところ、A社は不動産関係の事業を開始するにあたって、その事業に精通し、かつ、店の責任者としてのマネージメント能力を有している即戦力を求めて人材募集をしたところ、Bが応募してきたので過去の履歴を確認すると、不動産関係の仕事に就いていた期間も長く、それなりの即戦力として期待できると判断して雇用契約を締結しました。
しかし、Bの就労開始後の勤務状況はA社にとって満足のいくものではありませんでした。就労開始早々から遅刻を繰り返し、日々作成すべき業務日報も抽象的でわずかな記載しかなく、Bの勤務実態が把握できないものでした。
このため、A社はBに対して、遅刻の指導や業務日報の記載内容についての指導を行ったようですが、Bの遅刻は少なくなったものの、業務日報の作成については、外回りをしたときもその行き先や時間の記載はなく、何をしてきたのかの記載もされておらず、指導に従う態度を示さなかったようです。
また、Bは、普段は県外にいるA社の代表者に頻繁にメールを寄越して代表者の業務を妨害したり、A社の親会社の社員に的外れな苦情を繰り返すなどしたため、業を煮やしたA社は、Bの勤務成績は著しく不良であり、度々指導したもののBの態度等は改まることがないばかりかA社が求める協調性に欠けていることから、やむを得ず前記の普通解雇を行ったということでした。
一般的に、労働能力や適性の欠如、勤務成績不良を理由とする解雇は、不良の程度が著しい場合などに限られると言われています。単に他の人と比べて劣っているとか評価が低いというだけでは解雇事由に該当しないと言われており、本人に対する教育訓練や能力に見合った配置をするなどして解雇回避の措置をとる必要があります。但し、新人採用ではなく、特定のポストや職務のために店舗責任者などとして中途採用されたり、賃金等の労働条件が優遇されている場合などは、勤務成績不良等の程度は労働契約で合意された能力、地位に相応しいものであったかどうかで判断されることになります。
本件の場合は、Bは不動産業務に精通し、店のマネージメントも出来る即戦力として雇用されたものの、遅刻を繰り返す、日報もまともに作成できないこと、代表者や親会社にまで迷惑をかけるなど協調性に欠ける行為が多々あったことから、損害賠償請求を拒否し、わずかな解決金を支払うことで紛争の拡大を防ぐことが出来ました。