夫と別居して代理人を付けないで離婚等の調停を行っていたAさんが、調停で「当分の間別居する」という内容で調停を成立させましたが、やはり離婚したいと相談に来ました。
詳しく聞くと、夫の暴言や暴力に我慢が出来ず別居して調停をしたが、別居後の住所を教えていなかったところ、夫はAさんの親戚や知人などに連絡してAさんの所在確認をしていたとのことで、訴訟をするにあたって夫のことが恐ろしいので、住所を知られずに訴訟を起こしたいということでした。
一般的に、原告となって訴訟を起こす場合には、訴状に原告の氏名、住所を記載しなければなりません。そうすると、原告の氏名や住所は相手方に分かってしまうことになります。しかし、性犯罪の被害者が加害者に対して損害賠償請求を検討している場合やDVの被害を受けて別居して住所を明らかにしていない場合など、氏名や住所を加害者や相手方に知られることをおそれて訴訟を起こすことをためらってしまうこともありえます。
そこで、2023年2月から、一定の事情がある場合、訴状に氏名や住所を記載しなくても良いという「氏名、住所等の秘匿制度」が設けられて施行されることになりました(民事訴訟法133条)。
これは、住所等又は氏名等が他の当事者に知られることによって、社会生活を営むのに著しい支障を生ずる恐れがある場合に、裁判所に対して秘匿決定の申立を行い、要件が満たされている場合は、裁判所から秘匿決定が出されることになります。秘匿決定では、秘匿される住所又は氏名について代替事項が定められます。
今回の相談のケースでは、住所についての秘匿決定の申立を行い、裁判所からは秘匿決定が出され、Aさんの訴状に記載する住所は「代替住所A」とされました。このため、Aさんは真実の住所は裁判所に知らせますが、訴訟手続では「代替住所A」として訴訟を提起し、夫に住所を知られることなく審理を重ねて和解で離婚をすることができました。