- 東京電力は、9月12日から福島原発事故による損害補償請求の受付を開始しました。原発事故のため避難されている人々などに送られた請求関連資料はその量も多く、分かりにくいと言われております。
そこで、今日は、原発事故による損害賠償問題の基本的仕組み・流れについて説明し、避難者を初めとした種々の被害を被っている人々が、実際に被っている損害について、公正で正当な賠償を受けることが出来るための基礎知識をお話します。
- 今回の福島原発の事故において、東京電力は原子炉による発電事業を行なう中で原子炉事故を起こし、水素爆発などにより放射性物質を大量・広範に放出・飛散させました。その結果、広範囲におよぶ自然環境・社会環境を放射能により汚染し、私たちの社会基盤や生活基盤そして生活を破壊しました。
このような場合に、加害者は、被害者に対して「原子炉事故による損害」を賠償する責任があります。いくつかの特例の定めもありますが東京電力は、不法行為を行なったもの(加害者)として被害者に「不法行為により被った損害」を賠償する責任があるのです(第1 原則)。
- ところで、放射性物質の放出や飛散は、目で見ても容易に分からず、ガイガー計数管などの機器により放射性物質の放つ放射線量を測定出来るものの、生命や健康に害を与えない放射線量がどの程度なのか、将来、ガンを発生させる線量はどの程度かなどについては科学者の見解も種々分かれている現状です。
すなわち、原子炉事故により放射性物質が大量且つ広範囲に放出されたことは明白なのですがそれぞれの住民が受けた放射線量やこれから受けるであろう放射線量の予測については未確定です。また、原子炉事故が未だ収束しておらず、福島原発から少なくない放射性物質が、現在も、大量の水蒸気などと共に空中に飛散しております。
これらから分かるように、未だ「(東京電力が責任を負うべき)不法行為により被った損害」の内容が未だ明らかになっておらず、確定もしてはいないのです(第2の特色 損害の未確定)。
- 他方、政府や県、そして市町村は、住民の生命や健康そして安全のために、住民に対して20?圏内への立ち入り禁止、30?圏外への避難指示、また農産物の作付け自粛や出荷制限などの種々の「指示」を行い、それらの指示などのために被害者は大きな損害を被ってきました。
また、県内ばかりでなく県外にあっても、農作物からのセシュウムの検出や風評被害による損害が発生し、観光関連業者も顧客減少に伴う減収などが目に見えて大きくなってきました。
- 原発事故の被害者は多数に上っており、事故後既に6ケ月も経過しており、被害者の生活の困難・窮状は容易に推察できるところであるので政府は、被害者救済のためにも早急な仮払いをするように東京電力に促しきていたものです。
その場合の「支払いの指針」として示されたのが8月5日に出された「中間指針」です。これは、東京電力が、大量の被災者の方々に、出来るだけ早く補償金を支払うことを実現するために作られたものです。
- この指針は、東京電力が15万人以上におよぶ避難者などに、その生活補償の意を含めて速やかに仮払いをするように定められた「指針」です。被害者の損害はこの「中間指針」に縛られるものではありません。被害者の損害は、「(東電の行なった)不法行為により生じた損害」であり、これを東電は賠償する責任があるのです。ここでいう「不法行為により生じた損害」とは、「相当因果関係のある損害」と言われ「今回のような原発事故があれば、通常の人々はそのように行動するであろう。その行動の結果、生じた損害」であれば相当因果関係のある損害として賠償を請求できることとなります。
(留意点)
- 原発事故による不法行為は、まだ続いています。「これで損害賠償を終わりとする」などの合意書は、絶対に作らないこと。
- 「中間指針」の計算方法は、通常の損害賠償の場合の「基準」に比べ低額です。「指針」に拘束されず、(弁護士に相談するなどして)損害の実際の額を計算するように心がけること。
- 不明なことがあれば、弁護士会や弁護士に相談した後に対応すること。
以上