福島第一原発事故により,三月中旬に原発から放出された大量の放射性物質は,風に乗って,原発から遠く離れた郡山市にも降下しました。地面に降下した放射性物質は,現在も放射線を放射し続けており,原発事故から六ヶ月を経過した現在でも,郡山市では毎時一マイクロシーベルト前後の環境放射線量が観測されています。
文部科学省は,四月に「福島県内の学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方」を発表し,年間二〇ミリシーベルト,毎時三.八マイクロシーベルト以下という基準を打ち出しました。これに対しては,福島県内の父母をはじめ,多くの国民から疑問が寄せられ,現在,政府は年間一ミリシーベルト以下にすることを目標とするとしています。
そのような中,郡山市内でも,放射線による将来の健康被害を考えて,転出する生徒が増加しています。
現在のところ,郡山市内における放射線量は,急性の健康影響や遺伝的な影響が心配されるようなレベルではありません。しかし,長期間にわたり低線量被曝が継続した場合の人体に対する健康影響については,まだ不明な点が多く,癌の増加率などをとっても,どの程度増加するかについては,定説はありません。国際放射線防護委員会(ICRP)は,基本的には,「これ以下なら健康影響は起きない」という値(しきい値)はなく,無用の放射線被曝はできる限り避けるべきという立場で,各種勧告を行っています。特に,子どもの場合,成長期にあり細胞分裂が活発なため,放射線の影響を受けやすい(放射線感受性が高い)こと,また,今後長期間にわたり被曝を継続する危険があることから,その健康影響は慎重に判断する必要があります。
放射線による将来の健康被害を考えて避難するかどうかは,それぞれの判断に委ねられるべきであると思います。しかし,個々の家庭には様々な事情があり,避難できる状況にない家庭も多いですし,家族がばらばらとなるような避難生活を長期間続けることは,逆に子どもにストレスを与え,健康な成長の妨げになりかねません。
このようなことを考えれば,郡山市内などで求められるのは,子どもの生活環境からできる限り放射性物質を取り除く(除染)対策であると思います。
郡山市では,小中学校の校庭の表土を除去するという対策を進め,その結果,校庭や校舎で観測される放射線量はかなり低下しています。また,小中学校の教員や父母による校舎や通学路の除染活動も進められていますが,国や東京電力による直接の対策はまだ手つかずで,自治体や教員・父母・地域住民の自主的な除染活動に委ねられているのが現状です。
除染活動を行う本来の責任は,放射性物質をまき散らした東京電力と,これまで国策として原子力発電を推進し,発電事業者に安全対策をとらせることを怠ってきた国が負うべきものだと思います。
子どもたちの未来を放射性物質で汚染することなど,許されることではありません。国や東京電力に対し,責任を持って除染対策を進めることを求める運動が,今こそ求められていると考えます。