全国の都道府県が共同で設立された自治医科大学は、僻地や離島における医療の確保、住民の健康増進や福祉充実を目指す医師を養成しています。入学者全員に対し入学金や授業料その他の経費を貸与する制度を設けており、そこを卒業した医師は一定の期間、大学が指定する公立病院等に勤務すれば、貸与を受けたお金の返還を免除してもらえます。
このようにして国家資格を取得した新任の女性医師が、東北地方のある県立病院に研修医として勤務したあと某市の市立病院に派遣されて医療活動に入りました。
ところが、その市立病院の内科を事実上統括する立場にあった男性医師から個人的関心を持たれるようになり、男性医師は職場における上司的な立場を利用し、必要もないのに時間内にポケベルで呼び出してつきまとい、携帯電話のメールでも連絡を寄こすようになりました。因みに、男性医師には妻も子どももいました。
そして、女性医師が市立病院に赴任して1ヶ月が過ぎた頃に、同僚医師などが参加した懇親会のあとにバーに連れ出し、その女性の身体を触ったり、首筋や頬を舐め回すなどのわいせつな行為に及びました。そして、執拗にホテルに誘い解放しなかったため、女性医師がその場を逃れるために「今度の機会に。」と言ってしまいました。
ところが、その男性医師は、女性医師の言質を逆手にとり、その後も執拗にドライブに誘ったり、温泉行きを求めてきました。ポケベル攻勢も執拗を極め、女性医師が呼出に応じないと「彼氏でも出来たのではないか」と邪推して行動にまで干渉してくるようになりました。
このような中で、男性医師は温泉旅館の予約を一方的に取り、週末の温泉行きを誘ってきたため、女性医師も逃げ場を失い、温泉行きを強いられ男性医師との肉体関係を持つことを余儀なくされてしまいました。
そして、その後も男性医師は女性医師に対する行動をエスカレートさせ、日常業務が終了すると医局で待ち伏せして連日つきまとい、ポケベルでの呼び出し、女性医師の当直日に訪れたりというストーカー的な行為を繰り返し、女性医師が少しでも抵抗すれば、威圧的な態度を示したり、無視したり、嫌みを言ったりして、次第に女性医師をコントロールしていくようになり、女性医師もストックホルム症候群という心理状態に追い込まれていくことになりました。
こうなってしまうと、女性医師は恐怖と生存本能に基づいて、男性医師に迎合的態度をとるようになり、頻繁に肉体関係を持たされるようになり、挙げ句には自宅マンションの鍵まで男性医師に預けるところまで追い込まれることになりました。
しかし、女性医師は、ある単独旅行をきっかけに、男性医師に対する拒否的感情などを回復させることが出来るようになり、迎合的態度から脱却するようになってきました。ところが、男性医師は,女性医師に他男性との関係を邪推し、無断で女性医師のマンションに入り込み、私物をあさったり、パソコンのメールを確認するなど嫉妬に狂った行動をとったほか、露骨な嫌がらせ行為に走り、挙げ句には意図的に女性医師が妊娠するように関係を強いたりしました。その結果、女性医師は望まない妊娠をさせられ、中絶のための同意書を男性医師に作成してもらう際にも、意に反した姦淫行為の被害を受けました。
以上は、判決が事実認定した事実経過の概要ですが、裁判官、男性医師の一連の行為は、略奪型ストーキング、強姦型セクハラ、対価型セクハラ、決別後のつきまとい行為などを複合した一つの悪質なセクハラ行為であると断罪し、全体として極めて違法性の高い不法行為であると認めてくれました。そして、男性医師の行為は、女性医師の人格や性的自由を侵害し、女性医師の職業生活を侵害したばかりでなく、女性医師がPTSDを発症し入通院による加療と投薬を継続しているとして弁護士費用を含めて700万円の損害を支払うよう男性医師に命じました。