1 事案の概要
2003(平成15)年,中学校の柔道部で,顧問教諭が立ち会わずに休日練習中,1年生の女子生徒Aさんが上級生(部長)Bに乱暴に投げられるなどして後頭部を強打し,硬膜下血腫による遷延性意識障害(植物状態)となった事案です。
この中学校の柔道部は,全国大会の常連の強豪校で,Aさんは柔道初心者でした。一方,部長のBは個人で全国大会に出場経験があり,3年生退部後に部長となりましたが,Bが部長となったあと,部員に対して投げ技や絞め技,プロレス技などを集中的に仕掛ける「集中攻撃」がされるようになっていました。
Aさんは,大柄であったために,Bに目をつけられ,頻繁に「集中攻撃」を受け,事件の約1ヵ月前にもBに投げられて硬膜下血腫となって2週間入院していました。
2 経過
ご両親から相談を受け,他の柔道部員らから聞き取りを行うなどして事実関係を調査し,当時の顧問教諭を業務上過失致死で告訴しました。他方,教育委員会は独自の調査結果を公表しましたが,事実解明に積極的でなく,顧問教諭や学校の責任には全く触れないものであったため,2006(平成18)年8月,市,県,BとBの親に対し,逸失利益,慰謝料,将来の介護費用等2億2000万円余の支払いを求めて提訴しました。
刑事事件の捜査が遅れ,かつ極めて不十分な捜査結果しか開示されなかったため,事実関係の立証には困難を伴いましたが,当時の部員や顧問教諭らの尋問により,Bによる加害行為や顧問教諭が安全指導を怠り指導計画も生徒任せにしていたことなどが明らかになりました。
3 判決
2009(平成21)年3月,福島地裁郡山支部で判決が言い渡されました。
判決は,Aさんが重症を負った原因について,Bの投げ技によるものと認め,かつ,学校の責任についても,Aさんが事故前にも練習中に頭を打ち入院していたことを顧問自らが認識していたにも関わらず,なんら安全確保のための対策を講じていなかったことを認定した上,市・県に1億5000万円,Bに慰謝料300万円の支払いを命じるものでした。
当事者全員が控訴せず,判決が確定しました。
4 感想
学校での事故については,いわば密室状態で行われるため,学校の「隠蔽体質」と相まって,事実関係の立証に困難を伴うケースが多いです。この事件も立証は困難を伴ったが,テレビで報道されたり,ネットを通じて全国からの支援が寄せられるなどし,当時の部員何名かが実際に法廷で証言をしてくれ,事実関係と責任を明らかにすることができました。