当事務所の弁護士が弁護団に参加している「生業を返せ,地域を返せ!」福島原発訴訟(以下「生業集団訴訟」といいます。)についてご紹介します。
2011年3月11日に発生した東京電力福島第一原発事故により,福島県及び近県は,放射性物質で汚染されました。これによって,住み慣れたふるさとから避難を余儀なくされた方はもちろん,避難をしなかった人も,健康影響への不安などから,さまざまな生活上の支障,家庭や地域での意見対立など,さまざまな被害を余儀なくされています。被害者の願いは,賠償を受けたいというよりも,むしろ,これまでの安全安心なふるさとを返してもらいたいというものです。
こうした願いにこたえるため,原発事故当時,福島県及び隣接県に住んでいた方を原告とし,国と東京電力を被告として,①住んでいた場所の放射線量を事故前の状態に戻すこと(原状回復)及び②それまでの間,一律最低限の慰謝料として,一人あたり月5万円を支払うことを求める訴訟を提起しました。これが生業集団訴訟です。
他にも原発事故被害者の訴訟は数多く提起されていますが,生業集団訴訟は,①被害の根源の除去(原状回復)を求めていること②強制避難者か否かなど,被害の程度にかかわらず,一律最低限の賠償を求めていること③東京電力だけでなく,国を被告とし,原発推進政策の責任追及をめざしていることなどが特徴です。金銭賠償のみの解決を図るのではなく,被害者が団結して,原発事故が国の責任であることを明らかにし,その上に立って,被害者全体の救済のための施策を実現していこうというのが,原告団と弁護団の共通の考えです。
生業集団訴訟の第一次提訴は2013年3月ですが,これまでに4回の集団提訴を行い,現在,原告数は4000名を超えています(裁判がかなり進行しているため,新規の原告受付は,現在のところ受付しておりません)。
提訴してから現時点で約2年経過していますが,2ヵ月に一度のペースで口頭弁論が行われ,原発事故の責任の所在,あるいは被害実態をどう見るかということについて,主張立証がなされています。裁判では,これまで公表されてこなかった重要資料(事故前に,電力会社が,津波の高さによる被害予想をした資料など)を国に提出させるなどの貴重な成果ももたらしました。原発事故の専門家,被害の調査研究をしている専門家などの尋問も行われており,原発の安全管理のずさんさや被害実態が明らかになりつつあります。原発事故の責任追及と被害の救済は,単に裁判だけで実現できるものではありませんが,裁判と裁判外の運動を結びつけ,二度とこのような被害を生み出さないために,活動を続けていきたいと考えています。
訴訟の経過や資料などについて,詳しくは原告団・弁護団HP(http://www.nariwaisoshou.jp/)をご覧下さい。
文責:弁護士渡邊純