厚生労働省に設置された労働政策審議会は、2015年2月13日、労働者代表委員の反対を押し切って「今後の労働時間法制等の在り方について」を建議しました。政府はこの建議を踏まえて、通常国会に労働基準法の一部を改正する法律案を提出し、その成立を図ろうとしています。
ところで、この労働時間法制の見直しの特徴の一つに、特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設が盛り込まれています。前記の「建議」によれば、「時間ではなく成果で評価される働き方を希望する労働者のニーズに応え、その意欲や能力を十分に発揮できるようにするため、一定の年収要件を満たし、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者を対象として、長時間労働を防止するための措置を講じつつ、時間外・休日労働協定の締結や時間外・休日・深夜の割増賃金の支払義務等の適用を除外した労働時間制度」を設けるというものです。
要するに、現在の労働基準法で定める労働時間の規制をすべて除外し、時間外・休日・深夜の割増賃金の支払義務をなくす制度の導入を目論むもので、第一次安倍内閣のときに画策されたホワイトカラー・エグゼンプションを形をかえて再登場させてきたと言っても過言ではありません。
ところで、このような「高度プロフェッショナル制度」が導入されるとどのようなことが生じるでしょうか。ただでさえ、長時間労働で働き過ぎと言われる労働者は「成果」を上げるために際限なく長時間労働を強いられることになりはしないでしょうか。そして、「成果」が上げられなくても、その間の長時間労働に対しての割増賃金は支払われなくなるのですから、企業にとっては実に都合のよい制度ではありませんか。
「建議」は「高度プロフェッショナル制度」の導入にために「健康・福祉確保措置」をとることを求めていますが、これも長時間労働を防止するための措置とは言えません。例えば、「健康・福祉確保措置」の一つに「4週を通じ4日以上かつ1年間を通じ104日以上の休日を与えること」という措置を選択することができますが、この措置は、1年間を52週として、週休2日の域を出ないわけですから、休日以外の日の長時間労働を防ぐことにはならないのです。
さらに、「高度プロフェッショナル制度」の対象となる労働者の年収については「平均給与額の3倍を相当程度上回る」ことを求め、現時点では1075万円程度を想定しているようですが、これとても年収要件を引き下げれば残業代ゼロの労働者は大幅な拡大をしていくことになります。現に、経団連は年収要件を「年収400万円以上の労働者」にすることを主張していたのですから、一旦制度が導入されてしまえば、年収要件が引き下げられてしまうことは容易に想像できます。
「建議」の内容は、外にも様々な問題を抱えており、この労働時間法制の見直しを法制化させてはならないと思います。是非、「残業代ゼロ」の制度に反対の声を上げていきましょう。