結婚して子どもが生まれたものの、途中から夫婦仲が悪くなり、片方の配偶者が子どもを連れて別居してしまうというケースが世の中にはたくさんあります。多くの場合は、妻が嫁ぎ先や夫のもとから子どもを連れて別居するというケースですが、この場合、別居された夫が妻の元に出向き、力ずくで子どもを連れ去ってしまうという場合があります。
当事務所でも、このような力ずくで子どもを奪われてしまった妻の相談を受けることがあります。このような場合どうしたらよいでしょうか。実際に、当事務所が扱った過去の事件から学んでみましょう。
平成6年に結婚した夫婦で、夫は自営業、妻は公務員をしている夫婦でした。結婚後、なかなか子どもに恵まれず、7年目に念願の子ども(長男)が生まれました。しかし、その間、夫婦は夫の両親と同居するようになりましたが、夫の親類などが頻繁に集まる家庭であったため、妻は次第に疎外感を感じるようになり、挙げ句には、夫から「お前が馴染まないから悪いんだ」と非難されるようになり、出産後は、夫の両親が育児に関して度々干渉してくるようになりました。妻は、精神的に疲れてノイローゼ状態になったことから、夫の判断で、妻は長男を連れて妻の実家に2ヶ月ほど静養することになりました。
その後、夫は両親の妻の育児に対する干渉を抑制すること等を約束したので、妻は長男を連れて夫の実家に戻りました。しかし、状況は変わらず、7ヶ月後には,妻は長男を連れて再び自分の実家に別居しました。
ところが、夫は妻の留守を見計らって、当時1歳3ヶ月だった長男を力ずくで妻の両親から奪い、連れ去ってしまいました。その当時、妻は第二子を身籠もっていましたが、夫の行為に大変なショックを受けました。そして、突然母親から引き離された長男のことを心配して当事務所にわらをもすがる思いで相談に見えられました。
相談に見えられたのは、長男を奪い去られてから数日しか経っていませんでしたので、当事務所では直ちに、長男の監護者の指定を求める家事審判の申立とあわせて、審判前の保全処分の申立を行いました。この保全処分の申立は、正式に監護者の審判の結論が出るまでの間、仮の監護者を妻に指定して,長男の引渡を求める内容でした。長男が連れ去られていますので、一刻の猶予もありませんでした。家庭裁判所も事情が事情であったためか、迅速に事実関係を確認する手続を行ってくれ、夫にも呼出をしました。その中で、夫にも弁護士が代理人に就きました。そして、その弁護士も、長男を連れ去ってきた経過が異常であったことを認識したのか、夫を説得し、自主的に長男を妻の元に返してもらうことで話しがつきました。
本件は、長男が連れ去られて時間を置くことなく迅速に子どもの引渡の法的措置を執ったことが功を奏しました。夫も妻も長男に対する愛情は甲乙つけがたいものがあるでしょうが、力ずくで物事を解決しようとするのはあってはならないことです。