以前,このHPでも取り上げた,生活保護世帯の高校生が,高校へ通うために受給した給付制奨学金を,市の福祉事務所から収入としてみなされ生活保護費を減額された事件についての続報です。
この事件は,厚生労働大臣に対して不服申し立て(再審査請求といいます)をしていましたが,平成27年8月6日,厚生労働大臣の判断(裁決)が下りました。
その判断の内容は,市のおこなった収入認定処分と,それを肯定した県の裁決の両方を取り消すというものでした。
大臣が処分を取り消した理由は,市の福祉事務所が,処分をする前に,可能であるにもかかわらず必要な調査や検討をしていなかった点や,処分後も不適切な処理をしている点を指摘し,収入認定処分に至る判断過程が不適切で不当であったというものです。ただ,大臣は,奨学金を原則として収入として認定することの是非については,何も判断しませんでした。
これは,本人や支援する団体の活動が実を結んだものであり,一定の成果といえます。また,新聞報道によれば,この裁決をきっかけに,厚生労働省は,高校生が給付制奨学金やアルバイトなどで得た「収入」を,学習塾などの費用にあてる場合には,その費用分を収入とみなさないという趣旨の制度改正をおこなったということです。本人の勇気ある訴えが,生活保護制度そのものの見直しをさせるところまで広がりをみせたのですから,それ自体は大きな成果です。
しかし,奨学金に関する生活保護制度には,まだ問題が残っています。本来,奨学金とは,子どもたちが学んで成長することを促すために支給されるお金です。それを原則として収入認定する,つまり,生活費に使わせるという国の生活保護制度の運用基準それ自体が間違っています。生活保護は,単に生活を保障するというだけでなく,受給者が自分の力で生活していけるように支援をする(自立更生)制度ですが,奨学金を受けとれば保護費を差し引くというのでは,かえって子どもの自立を妨げてしまいます。ですから,奨学金を原則として収入とみなすという国の運用基準そのものを改正する必要があります。
この事件については,厚生労働大臣に対する再審査請求だけでなく,訴訟も提起していますが,今後も,訴訟や運動を通じて,国の運用基準の改正を求めていきたいと考えていますので,ご支援をお願いします。
経済的理由に関係なく,子どもが希望する勉強を好きなだけできる,そのような社会の実現に向け,どうすればいいのか。皆さんも,一緒に考えてみてください。