相談者Aさんの父Fさんが亡くなり,その相続問題についてAさんがご相談にいらっしゃいました。Aさんの母Mさんは既に亡くなっており,相続人はAさんを含む姉妹3人(A,B,C)とのことでした。Fさんは預貯金をのこしており,四十九日の法要でABCの三人で話し合いがなされ,BさんとCさんから,遺産の3分の1を要求されたとのことでした。Aさんは,母Mが亡くなってひとりになっていたFさんの面倒を何年もみており,葬儀等もすべてAさんが費用を出しておこなっていたことから,なんの協力もしてこなかったBさんとCさんに3分の1ずつ分配することには納得できない様子でした。
Aさんによると,Fさんは亡くなるまでの数年間は自分のことは全く出来ず,身の回りのことやお金の管理等は全てAさんがおこなっていました。一部の期間は介護施設にFさんを預けていましたが,そのときも定期的にFさんのもとを訪れ,着替えを準備したり,本をもっていったり,好きな食べ物を差し入れたり,献身的に介護をしていました。金銭管理についてもFさんは自分ではできず,Aさんが年金等を管理し,介護施設の利用料や日用品費などを支出し,記録をつけて保管していました。
本件の場合,Fさんの相続人はA・B・Cの3人ですので,法定相続分で考えるとそれぞれ3分の1ずつ取得することになります。しかし,相続人の中で「被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者」がいる場合には,「寄与分」という制度が認められています。寄与分が認められる場合には,その寄与分相当額を遺産からまず確保し,残りを相続割合に応じて分配することになります。寄与分が認められるためには単に一生懸命介護したということだけでは足りず,そのことによって遺産の減少を止めることができたと評価できなければなりません。
本件では,Aさんがいなければ成年後見人といった第三者を雇わなければならなかったはずであり,その費用相当額が寄与分に当たると主張しました。費用の算定にあたっては,裁判所が標準的な成年後見人への報酬として定めている額を資料とともに提示し,Bさん・Cさんと話し合い(調停)を行いました。
家庭裁判所での調停が続き,最初は渋っていたBさん・Cさんですが,調停委員や裁判官から説得され,結局こちらが主張していた寄与分を認めてもらえることになりました。
金額としてはそれほど大きくなかったものの,Aさんとしては自分が行ってきた介護が評価されたことで納得されたようです。相続に関する争いは,感情論になりがちで,当事者同士での話し合いは困難になることがあります。そのような場合には,第三者を間に入れて,冷静に話し合いをすることで解決につながることもあります。ご相談いただいてから解決までに1年余り経過してしまいましたが,A・B・C3人の姉妹も最終的には納得してもらえましたので,天国のFさん,Mさんも安心してくれたのではないでしょうか。