成年後見制度は,年々利用が進んでいますが,後見制度の利用が広がるにつれて,後見人が本人の資産を横領してしまうなど,不祥事や不適切な財産管理の例も増加していると報告されています。
成年後見人は,定期的に本人の生活状況や財産管理状況を家庭裁判所に報告し,その監督を受けますので,家庭裁判所の監督により不祥事が発見されることが多いのですが,不祥事が発見されたときには,すでに本人の資産が食い荒らされているということにもなりかねません。
そこで,後見人等による不適切な財産管理を防ぐための制度として,「後見制度支援信託」という仕組みが近年導入されています。
これは,後見人が本人の現金や預貯金を信託銀行に信託して財産管理を任せ,後見人は信託銀行から定期的に一定額の送金を受けて,これを本人の生活費などにあてるという制度です。信託銀行との信託契約の解除は,裁判所の許可がなければできませんので,後見人の横領などの危険が少なくなります。本人が私立の老人ホームに入居するなど,一時的に多額の出費が必要な場合には,裁判所の許可を受けて,信託銀行から支払いを受けることになります。
後見制度支援信託は,①本人の資産の大部分が現金・預貯金であり,かつ,②後見人が管理すべき本人の資産が数千万円以上など多額である場合に利用されることが多くなっています。ご質問のケースでも,交通事故の賠償金が支払われることにより,管理すべき資産が多額になるため,家庭裁判所としては,念のため,後見制度支援信託を利用することを検討していると考えられます。必ずしも,あなたが後見人として行っている財産管理に問題があると判断しているわけではないと思います。
後見制度支援信託が利用される場合,従来からの後見人とは別に,弁護士などの専門職後見人が一時的に選任され,信託利用の必要性や相当性・どの信託制度を利用するかなどについて判断した上で,専門職後見人が,信託銀行との信託契約を締結しますが,その後専門職後見人は解任され,従前からの後見人が本人の生活支援などを行うことになるのが一般です。
従来からの後見人にとっては,多額の現金や預貯金を管理する責任を一部免れることができ,本人の生活支援に集中できるというメリットもある制度です。裁判所とよく話し合ってみて下さい。