自宅を建築してもらうということは、長い人生の中においてそうあることではないと思います。しかも、日常の買い物と違って、大変高い金額で建物を建ててもらうわけですから、欠陥のない安心な建物を期待するのは当然のことです。
県内に住む甲さんは、建築業者に自宅の新築工事を依頼しました。依頼したときは業者の勧めにより長期優良住宅の認定を受けて補助金も支給を受けて業者に支払をしました。そして、初めての住宅の新築だということもあって、甲さんは基礎工事やその後の上棟までの工程なども折に触れて写真を撮りながら記録に残しておきました。そのような中で、数ヶ月が過ぎて建物も出来上がり、建築業者からは最後の工事残代金として1300万円余の請求が来ました。
しかし、完成したとされる建物の外壁は、多くの箇所にひび割れができていたり、表層部分が剥離するような状態にあったため、甲さんは工事残代金の支払を留保して外壁の補修を要求しました。しかし、建築業者の方では甲さんが思うような補修をしてくれないばかりか、完成した建物の引き渡しを拒み、最終的には甲さんを相手にして工事残代金の支払を求める訴訟を提起してきました。
甲さんは、満足な補修を得られないままでは納得できないとして、外壁の欠陥について争うことにしました。そのために、欠陥住宅被害の調査をしてくれる1級建築士の専門家に、建物の欠陥の有無について調査を依頼しました。残念ながら、建物の引渡を受けていないことから建物内部の欠陥調査は出来ませんでしたが、前記のように建築工事の工程の写真を残しておいたことから、外壁の不備だけではなく構造上の欠陥や他にも欠陥箇所ががあることまで明らかになってきました。
建築業者の提起した訴訟で、甲さんは建物の欠陥調査の結果を報告書にまとめてもらって証拠として提出し、建築業者に補修工事に要する費用負担を求め、これと工事残代金の清算を求めました。
これに対して、担当裁判官は、建物の欠陥内容の理解にかなり専門的な知識を要することから、専門員2人を選任して双方の主張整理をするようになりました。専門委員とは、公正・中立な立場で,裁判所のアドバイザーとして訴訟に関与し,専門的な知識や経験に基づく説明等をして、裁判官の知識や経験を補う裁判所の非常勤職員ですが、本件の場合には裁判所の方でも1級建築士の資格を有する建築士を専門委員として選任し、甲さんに協力している建築士の報告書をわかりやすく裁判官に説明してくれたものと思っています。
この事案は、途中から調停に付されて審理が続けられ、裁判所の理解もあって実際の建物の内部に入って欠陥の有無を確認するという、甲さんも望んでいた作業も出来ました。その上で、欠陥の有無やこれに対する補修の必要性など、甲さんが主張していたことは概ね裁判所の理解を得ることができました。
その結果、裁判所から解決案が示されることになりましたが、その内容は甲さんが依頼した1級建築士も受け入れることのできる内容であったことから、甲さんも受け入れました。その内容は、建築業者が請求していた工事残代金から補修工事に要する費用を差し引いて支払い、直ちに建物を引き渡すというもので、建築業者側は抵抗しましたが、最終的には受け入れて調停が成立し解決しました。
欠陥住宅の問題は、最近でも基礎杭が支持盤に届いていなくてマンションが傾いた事例などが報道されたりしていますが、とりわけ構造上の欠陥は建物の安全性にも関わる事柄ですので、不審に思ったら専門家に相談してみることをお勧め致します。