2011年3月11日午後2時46分、東日本大震災が発生し、福島県の県中地域でも震度6の大地震に襲われました。この地震は、建物の全壊や大規模半壊など住民に甚大な被害をもたらしましたが、道路や上下水道設備等々の社会インフラにも多大な損傷を加えました。
このようなインフラの一つである下水道配管の復旧工事で交通誘導員の方が労災事故の被害に遭われました。2012年のことです。
車道に沿って設置されている歩道の地下に埋設されていた下水道配管の復旧工事の現場でしたが、バックホーで掘削して埋設されている配管の上部の土砂を取り除き、新たな配管を埋設する作業現場でした。バックホーで掘削し、掘削した箇所の土壁が崩れ落ちないようにシーティングプレート(たて込み簡易土留)を設置して配管の交換をしますが、シーティングプレートはバックホーのアームの先端にあるフックにハンギングロープを引っかけてつり上げたり下げたりします。
このシーティングプレートをつり上げてダンプカーの荷台に下ろす作業をしていたバックホーのオペレーターが周囲の状況を確認しないままバックホーを後退させた結果、カラーコーンを除去しようとしていた交通誘導員の足をキャタピラーで轢いていまいました。
バックホーは車輌系建設機械の一種ですが、このような車輌系建設機械の稼働にあたっては、労働安全衛生規則で使用者に労働者の安全確保のための義務を課しています。同規則158条1項は「事業者は、車両系建設機械を用いて作業を行うときは、運転中の車両系建設機械に接触することにより労働者に危険が生ずるおそれのある箇所に、労働者を立ち入らせてはならない。ただし、誘導者を配置し、その者に当該車両系建設機械を誘導させるときは、この限りではない」と定め、同条2項では「前項の車両系建設機械の運転者は、同項ただし書きの誘導者が行う誘導に従わなければならない。」と定めています。
本件の作業現場では、バックホーがシーティングプレートをつり上げたり、下ろしたりするときには、作業員がハンギングロープをフックにかけたりしますので、必ず作業員がバックホーに近づくから、事業者は誘導員を配置しなければならなかったはずですが、最初から誘導員は配置されず、オペレーターの判断でバックホーを稼働させていました。したがって、そもそも労働安全衛生規則に抵触する現場だったのです。
上記の労災事故により、交通誘導員は右足挫滅、右足リスフラン間接脱臼骨折、足部末梢神経損傷の傷害を受け、後遺障害等級7級の障害が残ることになりました。そこで、交通誘導員は、2014年11月に、本件工事の元請事業者と下請事業者を相手取って損害賠償を求める訴訟を提起しました。
本件は、労働安全衛生規則に反する労働実態があったことから、事業者側の損害賠償責任は免れない事案だったのですが、元請事業者と下請事業者の間で責任の所在についての見解の相違などが出されたため、早期の和解による解決が困難となり、判決を視野に入れた証拠調べまでやらざるを得なくなりました。しかし、これらの手続を終了したあと和解協議がなされ、最終的には元請事業者と下請事業者の連帯責任を確認した形で相当額の金員を支払ってもらい解決をすることができました。
今回の労災事故は、事業者側が労働者を作業に従事させる場合、その労働者の生命や健康等に対して安全配慮義務を負っているにもかかわらず、労働安全衛生規則を遵守せず、重大な事故を惹起したのですから、その責任を負うのは当然のことです。しかし、被災した労働者には後遺障害が残りました。事業者には労働者の安全を最優先に考えた作業環境を整えるよう注意喚起をしたいと思います。