母と子の関係は、分娩という事実があることから通常は(赤ちゃんの取り違えなどを除いて)問題になることはありません。その一方で父と子の関係は、一見しただけでは分からず、特に離婚や再婚が関係すると複雑化することがあります。
民法では、離婚後300日以内に生まれた子どもは婚姻中に懐胎したものと推定するとされています。離婚後に誕生した子どもでも、離婚から300日以内に生まれている場合には前の夫の子どもということになるのです。しかし、なんらかの事情で離婚の手続が遅れてしまった場合にはどうなるのでしょうか。今回ご紹介する事例はそのような点が問題になった事例でした。
相談者(女性)はAさんと結婚しましたが、ほどなくして別れてしまい、子どもは授かりませんでした。離婚の話し合いの際にはAさんに離婚届を出してもらうことにしました。その後何年か経過し、相談者はBさんと知り合い、子どもを授かりました。そこでBさんと再婚することにし、戸籍を確認したところ、Aさんが離婚届を出してくれていなかったことが分かりました。急いでAさんに連絡をとり、ようやくAさんは離婚届を提出してくれましたが、相談者が子どもを出産した時期は、Aさんが離婚届を出してから300日経過していなかったのです。
先ほどの民法の条文によれば、生まれてきた子どもはAさんとの離婚から300日以内に生まれた子どもということになるので、Aさんの子どもということになってしまいます。しかし、実際はBさんの子どもなので、Bさんの子どもとして戸籍に記載されるようにして欲しいとのご依頼でした。
相談者の方から詳しい事情をお聞きしたところ、生まれてきた子どもを授かった当時、Aさんとは全く連絡をとりあっておらず、ましてや子どもができることなどあり得ないという状況であることが分かりました。しかし、法律上はAさんの子どもと推定されてしまっていますので、まずはAさんの子どもではないことを確認してもらう手続が必要になります。そこで、家庭裁判所に対し、生まれてきた子どもとAさんの間には親子関係がないことを確認してもらう手続(親子関係不存在確認調停)を行いました。Aさんは今回のことには関わりたくないとのことで、調停での話し合いに応じていただくことは出来ず、結局裁判に移行しました。裁判では、相談者が子どもを妊娠した当時Aさんとは全く交流がなかったこと、DNA鑑定の結果(子どもはBさんの子どもである可能性は99.9%であること)を提出しました。裁判所はこれらの証拠をもとに、生まれてきた子どもはAさんの子どもではないという判決を下しました。その上で本当の父であるBさんに認知をしてもらい、生まれてきた子どもはようやく戸籍上Bさんの子どもとして記載されることができました。
今回の事例では本当の父であるBさんが協力的だったこともあり、認知手続は裁判所などを利用せずにスムーズに行うことができました。しかし、事案によっては認知手続が難航することもあります。これら親子関係に関する紛争がこじれてしまった場合には裁判所を通じて解決することになりますので、そのような場合には弁護士などにご相談下さい。