当事務所で扱った介護施設での転倒事故案件についてご紹介します。
(事故の経緯)
Aさんは,高齢に加え,体の自由が徐々にきかなくなる難病にかかり,自宅で暮らすことが困難となったため,介護施設に入所しました。
ところが,レクリエーション活動に車椅子で参加していたAさんは,急に立ち上がってしまいました。その時,車椅子のフットレストが下がっていたために,足がフットレストに引っかかって転んでしまい,足を骨折しました。Aさんは,この骨折をきっかけに,長期間の入院を余儀なくされ,結局,肺炎を起こして亡くなりました。
(施設の説明と提訴)
Aさんの事故について,施設側は,「職員がちょっと目を離した瞬間に立ち上がろうとして転んだので,施設には責任はない」と説明しましたが,納得できなかったご家族の相談を受け,施設に対する賠償を求めて提訴しました。
訴訟でも,施設側は,責任について同様の主張をするとともに,Aさんが亡くなったことについても「もともと治療が困難な病気にかかっていたのだから,遅かれ早かれ亡くなったと考えられ,事故による死亡とはいえない」と主張しました。
(転倒についての過失)
しかし,弁護士が,施設側に保管されていた介護記録を検討したところ,事故以前に,Aさんが,車椅子から立ち上がろうとしたり,ベッドから起き上がろうとする動作を頻繁に繰り返していたことが分かりました。施設側は,特に転倒の危険が高いことを認識していたのです。しかも,車椅子を移動させていないときにはフットレストを上げておくことは初歩的な常識です。立ち上がり行動があったときに職員に知らせるセンサーを取り付けておくこともできます。本件の場合,転倒事故を防ぐための予防措置が十分にとられていたとは言えず,過失があることを主張しました。
(事故と死亡の因果関係)
また,適切なリハビリを受ければ病気の進行を遅らせ,日常生活を送ることが可能であったところ,骨折によってリハビリを受けることができず,日常生活動作が不活発になったことにより,肺炎を起こして死期が早まったことを,病院のカルテや医療文献等をもとに主張立証しました。
(そして和解成立へ)
その結果,裁判官より,施設側に過失があること,また,骨折とその後の入院によりAさんの死期が早まったことを前提にした和解案が示され,和解が成立しました。死亡慰謝料等については,Aさんが重病であったことなどから,請求額に比べ相応の減額がなされましたが,和解条項の中で,施設側からの実質的な謝罪や再発防止に務めることの表明なども得ることができました。
「高齢だったから」「病気だったから」というだけであきらめる必要はありません。施設側が,事故を防止するためにどのような対策を講じている(いた)のか,きちんとチェックすることは,事故の予防や介護水準の向上にもつながることです。お気軽にご相談下さい。